第4話:役職の捏造
櫛引木葉の役職、それは
「ま、おう……?」
【櫛引 木葉/15歳/女性】
→役職:魔王 (月の光)
→副職:剣士
→レベル:???(計測不可)
→タグカラー:
HP:2805
物理耐久力:1237
魔力保持量:5490
魔術耐久力:3278
敏速:1670
【特殊技能】《捏造》《鬼姫》→
・両面宿儺(りょうめんすくな)
・茨木童子(いばらきどうじ)
【通常技能】《言語》
・強化技能:《身体強化》《精神汚染耐久+》《自動回復力強化》《切断力強化》
・剣術技能:《居合》《切断》
・防護技能:《障壁》
・回避技能:《察知》《奇襲回避》
何度見ても、この表示は変わらなかった。
咄嗟に木葉は周りを見渡した。みんながみんな、自分のステータス画面に夢中で木葉を見ている人はいない。だが木葉の心は全く穏やかではない。だって…
「……ど、どうしよう。だって、ま、魔王って」
_________倒すべき敵
ゾクっとした感覚。また血の巡りが早くなった気がした。木葉はひとまず深呼吸して、対応を考える。
(でも、私が魔王なんて言ったら、私どうなっちゃうのかな?みんなに………こ、殺される?)
魔王は敵。この世界における悪。魔族の頂点にして亜人族の暴走の原因。という風に説明を受けた。ということは、魔王という存在はやはり神聖王国にとっては倒さなくてはならない相手なのだ。
(…………いや、だ。私は、花蓮ちゃんや、千鳥ちゃん、樹咲ちゃん、クラスのみんなに、倒されたくない…。戦いたくない……)
動悸が早くなる。
(どうすればいい?考えろ、考えろ木葉!私が私でいるために、、櫛引木葉でいるためにはどうすればいい!?)
不意に、ステータス画面のある一部分が目についた。それは
特殊技能:捏造
という表示。捏造?捏造ってなんだろう?もしかして、『表示の捏造』?そんなまさか?でも、それ以外に捏造とはなんだろうか?
(やってみるしかない!!)
木葉は決意した。隠し通そう。自分が魔王だなんて知ったら、きっとみんな悲しむ。それどころか、自分を敵としてみなして、殺そうとするかもしれない。クラスの人がそうしなくても、神聖王国が自分を殺そうとするかもしれない。まだ死にたくない、と木葉は強く思った。
(すきる?とかいうものの使い方は知らない。でも、お願い!!)
木葉は息を吸った。心臓の鼓動がうるさい。なにも聞こえない、なにも見えない、なにも感じない状況を作り出す。イメージしたのはあの夢の中。あそこなら、誰にも邪魔されない。
鉛色の空、影のついた草原、深い霧、、だけど、これは夢じゃないからその草原に女の子はいない。でもそれでいい。木葉は初めて、この場所に1人で立っていた。
(…………準備はいい?じゃぁやるよ!)
「特殊スキル:捏造!!」
その瞬間、木葉の目の前に数列が現れた。全く意味のわからない数字の列に、たじろいでしまう。木葉は数学が大の苦手だった。
(とにかく、普通のステータスにしたい!捏造だけど、其の場凌ぎにかならないかもだけど!それでもッ!!
私はみんなに嫌われたくない!)
木葉の願いを受けて、数列がだんだんと文字に変わっていく。木葉が手を伸ばし、その数に触れようとするも、数字は次々と文字を形成していった。
(お願いッ!!)
目を瞑って嘆願する。血の巡りが早くなり、呼吸が荒くなる。これが、魔法を使っているという感覚なのだろう。幸い先ほど見た時の木葉の魔力量は5400もあった。この分なら一度のスキル使用で枯れるようなことはあるまい。
木葉が目を開くと、そこには捏造済みのステータス画面が完成していた。
【櫛引 木葉/15歳/女性】
→役職:料理人
→副職:家政婦
→レベル:1
→タグカラー:
HP:10
物理耐久力:12
魔力保持量:15
魔術耐久力:10
敏速:7
【特殊技能】《キレイキレイ》
【通常技能】《言語》
「うわぁ、、弱そう…………」
数字だけ見れば凄まじい退化である。
それでも木葉は安心した。これで『普通』だ。もしかしたらみんなの役には立てないかもしれない。けれど、みんなと戦うよりよっぽどいい。
安心したら突然目の前の景色が変わってしまった。草原から、先ほどの運動場へ。どうやらみんな大体確認し終えたようだ。
(花蓮ちゃんたちはどうなったかな?ていうか、私本当にバレないよね?隠し通せるよね?うぅ、心配だなぁ)
すでにレガート団長の元に数人並んでおり、肩を落とすもの、喜びに打ち震えているものとそれぞれだった。
木葉は樹咲の後ろに並んだ。
「お、木葉!なぁ、どうだった?」
「料理人」
「へ?」
「料理人だよ!樹咲ちゃん!」
「え!?ええぇえ!?うっそだぁ!」
「ちょ、声が大きいよぉ…」
木葉は心の中の恐怖を押し殺そうといつもより大きい声で、元気を装って接した。周りの子たちもびっくりしていた。樹咲の声の大きさにだ。
「いや、だって、えぇ!?うそぉ。木葉が?」
「うん!」
「まぁ、その、なんだ、、気にすんな……ってあれ?なんか木葉喜んでないか?」
「うん!これで樹咲ちゃんたちに美味しいご飯作ってあげられるよぅ!」
「な!?て、天使かこの子は!!」
「ラーメン作りなら任せてね!」
「なんでラーメンなんだ…」
「私、ラーメンしか作れないんだぁ…」
「………本当になんで料理人なんだろ」
……
…………
………………
レガート団長にステータス画面を見せた時は異常に驚いていた。それもそうだろう。レガート団長は、クラスの影響力も考慮して白鷹 語李か櫛引木葉が勇者だと考えていたのだ。それも櫛引木葉が鍛えていることも見抜いていた。その勇者最有力候補のうち、特に勇者らしいと考えていた少女がまさかの…
「櫛引木葉…………料理人…………」
「え!?ええええええええええ!?」
なのだ。クラスのみんなは木葉の剣の腕を知っている。それだけでなく普段の身体能力の高さや頭の回転の速さ、いざという時の決断力とみんなを率いる統率力も知っているのだ。それがこんなモブみたいな役職を与えられたとなれば、憤慨する人はするだろう。主に尾花花蓮が…。
「な、納得できません!!どう考えてもこのクラスでは木葉ちゃんが一番強いはずですッ!!やり直しを!ちぇえぇんじ!!!」
「お、落ち着いて花蓮ちゃん!私料理人で良かったと思ってるよ?ほら、料理苦手だったからこれを機に覚えたいもん!」
「初心者なのか………ますます訳がわからない。これほど見合ってない役職が与えられることなど、普通はないはずなのだが…」
これにはレガート団長も弱ってしまう。しかも副職が戦闘職なら兎も角……
「家政婦て…………」
「お、お嫁さん!お嫁さん修行だよ!多分!」
「いけません!木葉ちゃんがお嫁さんなんて!!どこのどいつに嫁ぐの!?私そいつ殺さなきゃッ!!」
「花蓮ちゃん!?嫁がないよ!?修行するだけだよ!」
花蓮の暴走が止まらない。流石にこれには木葉も苦笑いである。
「で、勇者は誰だったんだ?」
天童 零児(てんどう れいじ)が尋ねる。実な初めに有力候補の白鷹 語李(しらたか がたり)に尋ねていたのだが、、、
「俺は槍使いだ。てことは、他の奴かな?」
「うっそ、ガタリくんも勇者じゃないの?」
「俺絶対木葉ちゃんかガタリか零児だと…」
「因みに零児は?」
「武闘家……」
「あぁ、似合うわ…」
「うるせぇ!!」
「んじゃ、結局誰が…」
「俺だ」
突然団長の前に立った少年。それは……
「うっそ……」
「終わったな……」
「うわぁ…」
黒髪のDQN、船形 荒野(ふながた こうや)だった。戦闘向きといえば戦闘向きだが、ガチの不良である。それも、評判の悪い筋金入りの不良だ。他クラスの奴らをパシリに使って苛めたり、酒タバコに浸り、喧嘩ばかりして、裏ではドラッグを持っていたりなんて噂も出ている。みんなは触らぬ神に祟りなしといった感じで関わろうとしなかったのだが……
「ふむ、お前の名は?」
「船形 荒野(ふながた こうや)」
「ステータス画面は、、あぁ、たしかに勇者だな」
【船形 荒野(ふながた こうや)/15歳/男性】
→役職:勇者
→副職:火薬技師
→レベル:1
→タグカラー:
HP:120
物理耐久力:120
魔力保持量:120
魔術耐久力:120
敏速:80
【特殊技能】《破壊》《光射》
【通常技能】《言語》
・強化技能:《身体強化》
・攻撃技能:《反射》《爆破》
・状態技能:《移動緩和》《魔力対抗》
「つーわけだから、勇者:荒野様でやってくんで……頼むわ団長さん、ギャハハハハッ」
団長の肩をポンポンと叩いて不快な笑い声を上げたのち、くるりと振り返って
「あー、テメェらも勇者である俺に偉そうな口聞いたらぶっ殺すからな?特にさっきのキモオタ、、勇者になりてえって想像してたお前だよゴミ!」
「………し、してないです…」
「あ"?聞こえねぇな、はっきり言えよ」
勇者が誕生した瞬間だが、みんなの表情は芳しくない。頼むからガタリか木葉が良かった……と団長を含めみんながそう思ったのだった。
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