第3話:絶望の魔王
晩餐には王女たちも参加するとのことなので、一先ず生徒たちは名残惜しさを捨てて騎士団長に案内されていった。
「やー、やべぇわ。可愛すぎるぞあれ」
「美し過ぎて危うく木葉ちゃんから乗り換えてしまうところだったぜぇ」
「や、俺マリア様派だわ」
「俺レイラ様派」
「あたし騎士団長様好みかも!」
「隣に控えてたイケメン騎士も良かったよね〜」
と、興奮冷めやまぬ彼らは喋り始める。
「あ、あたしとしたことが、しばらく見とれてしまっていた」
「僕もだよ樹咲。あれだけの美丈夫はなかなかお目にかかれないからねぇ。花蓮も王女様にずいぶん熱い視線を送っていたじゃないか」
「わ、私は、木葉ちゃん一途よ!うん、ただ、マリア様も、意外といけるかも……」
「な!?花蓮が、、浮気しているだと!?」
(…なんの話だろう?)
1人話が理解できない木葉だった。
生徒たちがやってきたのは、王宮内の広い運動場のような場所であった。騎士団長は全員揃ったのを確認すると、一人一人に白色のタグのようなものを渡した。
「先ほど紹介させていただいたが改めて。王国騎士団団長のレガートだ。お前たちの訓練や、戦闘指導などを担当する。よろしく頼む」
赤毛の髪を清潔そうに整え、顔立ちもかなり整っており、おまけにかなり筋肉質だ。これはモテそうなものである。女子たちは数人きゃあきゃあ声を上げていた。
「さてこのタグだが、これはギルド加入者の人間の身分証明書だ。能力値や役職、サブの役職、技能(スキル)等が刻まれている」
「え、名前しか刻まれていないのですが…」
「こうするのだ」
そういってレガート団長はタグを掲げた。すると、そのタグからまるでホログラムのようにゲームのステータス画面のようなものが登場した。生徒たちが「おぉぉ」と感嘆の声を漏らす。
【レガート:フォルベッサ/45歳/男性】
→役職:守護戦士
→副職:工芸師
→レベル:47
→タグカラー:紫月
HP:710
物理耐久力:632
魔力保持量:50
魔術耐久力:314
敏速:572
【特殊技能】
【通常技能】
「すまない、通常技能 特殊技能は見せられない。因みに言っておくが、通常の騎士たちのレベルは40前後だ。君達はさらに上がりやすいはずだ」
「そんなゲームみたいにほいほいレベルが上がるわけじゃないのか…」
「ちょっと期待してたんだけどな」
男子たちから少しがっかりした声が漏れる。
「それから、タグカラーというものがあるが、これは『ギルド』などの依頼を受けて魔族や亜人を倒した時にその功績によってあがっていくものだ。上から【金月 銀月 銅月 紫月 蒼月 翠月 黄月 橙月 紅月 白月】と10段階になっている。黒のカラーが付いている黒月は闇ギルドなどに所属する犯罪者たちだからそこは注意するように。まぁ、君たちは冒険者としてギルドにタグカラー申請はしないし、あまり関係はないよ」
虹の寒色系が上の方らしい。
「では、早速ステータスプレートを開いてみてくれ」
「開くって、掲げるんでしたっけ?」
「ああ、掲げる必要はない。先ずはこのタグに自らの情報を刻まなくてはならない。このタグに口づけをしてみてくれ」
「く、口づけ!?」
「ああ、それで名前以外の全ての情報が登録される。あとは画面に手書きで名前を入力し、完成だ。15分後に皆んなの役職を記録帳に記入するから、色々見終わったら報告してくれ」
「おおぉ!なんか本格的!やべぇやべぇ!役職楽しみなんだけど!!ていうか、役職ってどんなのがあるんすか?」
「様々あるな。騎士、剣士、魔術師、暗殺者、吟遊詩人、死霊術師、武闘家、弓兵、召喚術師、双剣士、妖術師、回復術師、巫女(かんなぎ)、槍使い、錬金術師などなどだ。これが役職だな」
「おお!!そんじゃぁ副職っていうのは?」
「こちらは本当に多種多様だ。料理人、工芸師、建築技師、商人、技術者、観測者、探窟家とまぁ、それぞれに向いてる、というか才能的なものだ。役職にあるような職業が副職にまわることも多々ある」
「やっべぇぇ!!!興奮してキタァァ!!」
零児が騒ぐ。みんなもなんだか興奮したように騒ぎ出す。気分は完全にRPGである。
「ああ、これを言わなくてはならなかった」
と、再びレガートが切り出すと、騒いでいた皆が静かになった。
「この中に1人、『勇者』という存在がいるはずだ。そのものには今後みんなのリーダーとして働いてもらうこととする。他の奴らはその勇者を助ける役割を担ってもらう。ゆくゆくは、『魔王』と戦ってもらうことになる。勇者となったものはそれを覚悟してくれ。
それから、私に報告するまであまり役職を友人同士で語り合うのはやめて欲しい。要らぬ人間関係の拗れを起こしかねないからな。15分後に記入してもらったものを、私が直々に発表しよう」
それを聞いて、みんなが期待に胸を膨らませた。『勇者』は初めから決まっているわけではない。つまり自分にもチャンスがあるかもしれないのだ。ゲーム大好き現代っ子たちは、是非とも自分が勇者に!と思いをはせる。普段クラスで根暗な少年だって、なれるチャンスはあるのだから。
「なあ、誰が勇者だと思う?」
「うーん、ふつうに考えたら木葉ちゃんか語李じゃね?いや、もしかしたら俺かも!」
「自惚れんなバーカ。おい、お前も勇者になりたいとか変な想像してんだろ?」
「お、思ってない…です」
戸沢 菅都(とざわ かんと)ともう1人、よく目立たない男子をからかっている船形 荒野(ふながた こうや)という黒髪の不良風男子がその目立たないグループの男子に向かって大声を出す。役職によってはクラスカーストの逆転もあり得るのだ。38人クラスの1-5の生徒たちは期待と不安でいっぱいである。
「さて、では少しみんなから離れてタグをみてくれ」
(うーん、皆んなの役に立てる役職がいいな〜。勇者とかはよくわかんないけど、かっこいい響きだし勇者もいいなぁ。うん、勇者になりたいかも!!)
「ふふ、木葉ちゃん張り切ってるね」
「うん!!みんなの役に立てるやつがいいな」
「なれるよ!木葉ちゃんなら!」
「だといいなぁ……」
(役職ってどんな感じなのかなぁ)
「木葉は、、剣士とかじゃないか?」
「あ、ありそうだねぇ。勇者でもいい気はするけど。なら樹咲は武闘家とか?僕は魔術師だ」
「千鳥は奇術師とかだろー」
「なにを!!」
「じゃあ私は?」
「花蓮は…………巫女(かんなぎ)とかじゃないか?」
「おぉ!いいね!」
「ほら皆さん、お喋りしてないでタグの確認を!先生も不安なんですから……」
「ふぁーい」
笹ちゃん先生に注意されてしまったので、みんなのそーっと歩き出す。花蓮たちから少し離れて、木葉はタグを確認しようとした。
(うん、このくらいの感覚なら……
あ、れ……………!?)
不意に、木葉をゾクっとした感覚が襲った。
木葉はかなりこの時点で身体の異変に敏感になっていた。この体調では、もしかしたらみんなの役に立てないかもしれない。
(なんだかとても胸騒ぎがする。心臓がドキドキしてる。緊張?違う、、、これは…………
…………………恐怖?)
何故だかは知らない。でも、あの教室での転移の時と同じような感覚を再び覚えていた。このタグをみてしまったら、もう絶対に後には引き返せない…………そんな感覚を。
(なんで?怖い。怖いよ。ただ見るだけなのに?別に勇者じゃなくたって、花蓮ちゃんや千鳥ちゃんや、樹咲ちゃんや、クラスのみんなは受け入れてくれるよ!きっと、、、なのに………
………………なんでこんなに怖いの?)
これはきっと体調とかの問題ではない。開けてはいけない箱を、それでも開けなくてはいけない時どうするか?そんな緊張感。木葉は深呼吸をした。まわりからは「おお!」とか「きたぁ!」とか、「あぁ……」とか、それぞれ役職に対する反応の声が聞こえてくる。数秒後に自分がどんな反応をしているのか、とても怖い。けれど、決断の時は迫っていた。
(見なくちゃ…)
そうして木葉はタグに口づけをした。ブォンとデータ画面が表示される。木葉はその画面を恐る恐る覗き込んで、そして
「………え?」
【櫛引 木葉/15歳/女性】
→役職:魔王 (月の光)
→副職:剣士
→レベル:???(計測不可)
→タグカラー:
HP:2805
物理耐久力:1237
魔力保持量:5490
魔術耐久力:3278
敏速:1670
【特殊技能】《捏造》《鬼姫》→
・両面宿儺(りょうめんすくな)
・茨木童子(いばらきどうじ)
【通常技能】《言語》
・強化技能:《身体強化》《精神汚染耐久+》《自動回復力強化》《切断力強化》
・剣術技能:《居合》《切断》
・防護技能:《障壁》
・回避技能:《察知》《奇襲回避》
「……え、あ、あれ?なんで…………」
目の前が真っ暗になる感覚。タグをもう直視できなかった。
「………なに、これ。…私、まおう、って。だって、まおうは敵だって……。嘘、だよね?」
だけど、木葉のタグには間違いなく刻まれていたのだ。それは何度見返しても、全く変わることはなかった。
役職:魔王
「………ぁ、あぁ、あああぁあぁああああぁあ」
木葉の苦難はここから始まった。
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