第28話 動き出す悪意

 飲食店を変えて席に着く小山田健人達。新しい店に来てからも腹の虫は収まってはいなかった。

「くっそ、ムカつくぜ」

 注文して出てきたビールを一気に飲み干し、小山田は愚痴る。

「あんな奴にそうカリカリするなよ」

 同席しているのは小山田健人と同じ大学のサッカー部の面々。その中の一人、集団の中では一番背の高い川本が冷静に言った。

「川本は大苗代と同じ高校だっけ?」

 つまみに手を伸ばすサッカー部の女子マネージャー、天野恵美奈が料理の味に舌鼓をうちながら川本と大苗代の関係に触れた。

「あいつも同じサッカー部だったんだけどよ、途中でやめちまったんだよ。忍耐力も継続力も無い低レベルな奴だ。相手にするだけ時間の無駄だって」

 川本は大苗代崇人と同じ高校の同級生で、一度は一緒のサッカー部の部員となった。しかしそうとは思えないほど、大苗代崇人のことを下に見ていた。

「俺がムカつくって言ってんのはそっちじゃねぇよ。あんな奴一発ボコるまでもねぇよ」

 苛立ちながら食べ物を荒々しく食べていく小山田。口いっぱいに頬張り、ビールで流し込む。

「大苗代と一緒にいた女だよ。あいつ誰だ? 次に会ったらただじゃおかねぇ!」

 小山田の握り拳がテーブルに叩きつけられる。

「そんなに気にするなよ。大苗代程度の奴と一緒にいるような女だぞ? 大した奴じゃねぇよ」

「そうそう、確かにちょーっとカチンって来たけど、大苗代レベルとつるむんじゃ終わってるっしょ」

 川本の言葉に同じ学部の篠山沙希が同意する。二人の大苗代崇人への評価は非常に低い。その評価の低さは一緒にいるメンバーまで低評価をつける程だった。

「それなら余計ムカつくだろ。低レベルな女にバカにされたまま終われるかってんだ」

 小山田の怒りが止まることはない。どうやら相当ストレスをため込んでいるようだ。

「…ってか、お前らさっきから黙ってんじゃねぇよ」

 小山田健人のいる席には小山田、川本、篠山、天野の四人以外にもサッカー部の面々がいた。しかしみんな口を閉じて会話に参加していなかった。

「いや、ソシャゲのガチャで爆死しちまったんだよ」

「俺は昨日パチンコでけっこうやられたんだよな」

「俺は馬で痛い目に遭ってさ、ボートにしたんだけどなかなか儲からねぇんだよな」

 みんな金欠でテンションが低いようだった。

「それならさぁ、またやんない?」

「ああ、いいね。私も最近新しい服が欲しかったんだけどピンチでさ」

「恵美奈、バイト代は?」

「そんなのもうとっくに使っちゃったよ」

「あはは、一緒だ」

 篠山と天野がお互いの顔を見て笑っている。

「そうだな、最近イラついてるし、スッキリして金も稼いでパーッとやるか」

 小山田のこの言葉に今まで黙っていたメンバーの表情も明るくなる。

「それなら先月のあの子はどうだ? 胸がでかくて好きだったんだよ」

「ああ。その子はこの前海外留学しちゃったよ」

「じゃあこの前のシュートカットの子は?」

「その子先月だけで三回も呼び出したでしょ? 家族とかに怪しまれてるらしいから止めた方が良いよ」

「じゃあ少し前の気の強い子はどうだ?」

「その子自殺未遂で今入院中、脅しすぎでおかしくなっちゃったみたい。まぁ、勉強のノイローゼとか鬱とかでバレてないけど無理っしょ」

 男達の提案をことごとく篠山と天野が却下していく。

「新規開拓でもするか?」

「そうだな、姫園女子は金持ちのお嬢様ばかりでガードが緩いからすぐナンパで連れるし、新規開拓も余裕だろ」

「いつも通りナンパして連れ込んで、みんなで楽しんだ後は写真で脅して金づるにする。お嬢様だから金はバンバン取れるし、金持ちのお嬢様はいい女が多いから何度も呼び出したくなるんだよな」

「それでやり過ぎてバレたら元も子もないから止めなよ。脅して金取るアタシらだって楽じゃないんだからね」

「悪かったな。今度の取り分は少し多くしておくからよ」

 酒を飲み、つまみを食べながら、集まった面々の悪巧みの相談は続く。

「そうだ、大苗代と一緒にいた女はどうだ?」

「あ? あいつのお下がりとか無理だろ」

「いや、でも顔は可愛いぜ。気が強いのも写真撮って脅したら素直になるだろ」

「俺は胸がでかい方が良いな。あれは細すぎる」

「でも顔は良かったからな。胸のでかい姫園女子のお嬢様とセットってのもなかなか楽しめるかもしれないぜ」

「ははは、それも悪くねぇな。気の強い女の反抗心をへし折るのも楽しいしな」

 酒も進み、悪巧みと下世話な話がさらに盛り上がっていく。

「でも大苗代の女程度じゃ後で脅しても金とか取れそうにないけど?」

「じゃあその代わりに身体で払わせりゃいい。姫園女子みたいに別の大学じゃなくて同じ大学なんだ。毎日呼び出して便器代わりに使ってやるよ」

「お前発想がエグいな」

 下世話な悪巧みから大きな笑い声が飛び出す。

「アタシらは大苗代の女とかどうでも良いよ。お金になんないんでしょ? じゃあやんないから」

「わかったよ。じゃあ近々姫園女子の方で一発やるから、いつも通り頼むぜ」

 小山田が篠山と天野に追加で注文したビールを譲る。

「はいはい、じゃあいつも通りでね」

 悪巧みが一段落した。先ほど感じた苛立ちが少しは晴れたのか、小山田は最初よりは楽しそうに酒の席を楽しんでいた。

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