真白な青眼のラブ・ガン・ガール編 ~星名輝羅梨ルート~
真白な青眼のラブ・ガン・ガール編 ~星名輝羅梨ルート~
「ナッキー、大分エイム安定してきたね。キルされても動きが散漫にならなくなってる」
『そ、そう?』
「うん。いい傾向だね。さて、今日は後何回いく?」
今日、ナッキーとやっているのはバトルロワイアルゲーム。三人のチームを組んで、敵を撃ち滅ぼし、最終的に生き残るのが目標。日本で何故か大流行している。
ナッキーはしばらく唸っていたが、
『二回! 絶対チャンピオン獲る!』
「じゃあ死なないでね。ナッキーエイム安定してきたけど全体的に馬鹿凸気味」
『ふぐぅ……っ!?』
呻くナッキーだったが、仕方がない。本当に敵を見つけたら反射的に突撃していくんだもん。そういうゲームとはいえ、有利ポジガン無視で撃ち合いに行くのはさすがに脳みそ筋肉過ぎる。
「よーし、そんじゃいくぞー!」
『おー!』
深夜ながらハイテンションな彼女に降下地点にダイブする権限をゆだねて、俺は置いておいたコーヒーを啜った。
◇
愛とかさ。恋とかさ。似合わないと思うわけですよ、我ながら。
私なんかと恋人になっても、良いことないと思うし。だって、海にも行けない。山にも行けない。外出系のイベントが大よそつまらないことになる。それってすごくマイナスだ。素敵な思い出を共有したいのに、思い出を作ることがそもできないのだから。
でもさ。それは普通の人の話なんだよね。
「はぁ……」
ケータイのロックを解除して、パスワードを掛けてるフォルダにアクセス。
……一回、かがりんが家に来た時に私もノリで撮った写真。
相変わらず、カメラ越しにも整っている。加工してなくてこれなんだから、ホントにどーなってんだろう。
彼の顔を見ていると、自然と心臓の鼓動が早まる。思わず顔が赤くなっていくのを感じて、枕に突っ伏した。
「うう、オトメかよ私……」
ぶつくさ言ってても仕方がない。認めるものは認めないといけない。
私は光本篝という人間が大好きだ。深夜三時。こんな遅くまでゲームに付き合ってくれるかがりんが好きだし、そよぎの相手をしてる時の優しい顔も好きだし、学園で友人にだけ見せる三枚目なところも愛嬌があって好きだし。
ああもう、何でも好きなんじゃん。ちょろいな、私。もう彼の信者だ。悟られないようにするの、もう必死だよ。でもそんなだらしない顔、好きな人に絶対見られたくない。
「はぁ……」
明日は土曜日かぁ。かがりん、ゲームに付き合ってくれるかなあ。いや、でもこんな夜中までやった後は私もきっと泥のように寝るし……。
ん? メッセージ?
『ナッキー、水族館行かない? 伝えたいことがあるんだけど、いいかな。夕方五時に駅前を考えてるんだけど』
…………。
『こんな時間にデート誘うなし』
『ごめん。でも起きてると思った』
『起きてるけどさー。いいよ、夕方五時ね。さりげなく私の肌に気を遣ってるんだ』
『だって、まだ大切な友人だしね。それじゃ、明日駅前で』
『りょーかい』
敬礼のスタンプを飛ばすと、嬉しそうな犬のスタンプを返してくれる。
……寝よ。クマだらけの顔なんか見せらんない。
そう思って横になる。
…………デート…………
まだ、大切な友人。まだ? ということは、これからどうなるの? 悪くなる? いや、それとも進んじゃうのかな。え、どうなるんだろう。わかんない。
どうしようもなくドキドキしている。目を閉じて無理やり寝ようとするけど、いつものかがりんの顔が浮かんできて、眠れない……!
「うぁああああああああ~~~~~~~~……………………!」
結局、その日は寝付けなかった。
◇
今日はナッキーとデートの日。めいっぱいおしゃれしたのだが、やたら見られてるな……。まぁいいけども。
しかし、肝心のナッキーが来ない。五時を五分過ぎたが……
「お、お待たせ……」
日傘を持って現れたナッキーに、俺は思わず目を見開いた。目元……凄い化粧だ。白いファンデなんだろうけど、市販のファンデだと色が濃いので白い肌のナッキーには目立つ。挙句に、酷く疲れている様子。
「ナッキー大丈夫!?」
「へ、ヘーキヘーキ。こんなのアレだよ、全然だいじょー……うわっ!? ちょ!?」
思わず目元をこする。べったりと手のひらに付くファンデーションだったが、その下にはクマができている。
「…………」
「どうしたのさ、昨日あれから泥のように眠ってるのかと……」
「で、デートに誘われた経験なんかないんだから、眠れなくなるに決まってるじゃん!」
ほぼ半泣きのナッキーがキレてしまった。怒らせるつもりはなかったんだが……。
「……どうする? 寝る?」
「デート行くに決まってるよ。寝れないほど、楽しみ、だったの。……気づけよぉ」
顔を伏せて、頭をこつんと胸元に当ててくるナッキー。近づくと、花のような甘い匂いが鼻腔の中で燻る。脳髄が溶けていくような、果てなく甘い匂い。
そんな彼女を軽く剥がして、華奢な手を握った。驚いていたが、彼女は照れたように真っ赤になって、体を近づけてきた。ぴったりと俺達は寄り添い、そのまま駅の仲へと歩いていく。
寝不足気味の時に電車で座れたらどうなるか。
かっくんかっくんとナッキーが舟をこいでる。眠そうだ。
電車内にはぼちぼちしか人がいない。もう夕方だし、水族館はそこそこ田舎の場所にある。向かう人間はデートを企てている、俺達みたいな未成就の恋ではなく、成就した経験者ばかりなのだろう。ちらほらとカップルがいる。
俺はナッキーの頭を、俺の肩の上に置いた。
「……ごめん、着いたら起こして」
「うん、いいよ」
だが、電車が揺れ、ナッキーは俺の太ももの上に乗っかってしまった。でももう彼女は意識を沈ませていたらしく、起き上がる気配はない。どころか、幸せそうにしている。
「……無防備だなあ」
俺が伝えたいことは、当然ナッキーと恋人になりたいという俺の気持ちだった。あんな書き方をしたんだ、その手のことにあまり敏感ではないが、人の気持ちがある程度わかるナッキーならば、俺の言わんとしていることは分かり切っているのだろう。
だからこそ、俺にこんな無防備な姿を預けているのだ。
それを裏切ってしまうことはあまりに下衆だ。そんな自分は自分じゃない。
指通りの良い白い髪。綺麗だな……本当に、現実なのかと疑いたくなるような容姿だ。いい意味で現実離れしていて、本当に最初は驚いたんだ。
「……」
俺にはもったいない。こんなに綺麗な人が恋人なら最高だと何度も思った。人に気を遣える彼女が好きだし、意外と面倒見がいいところも好きだし、FPSになると人が変わるところも愛嬌があっていい。コロコロと色んな表情を見せてくれる、学園での相棒的な感じだったけど……俺は、その一線を超えたい。
それが例えダメだったとしても、後悔しない。
だから、これは練習だ。
「……好きだよ、輝羅梨」
「にゅむー……屈伸……だめ……」
卑怯者だ。ナッキーの反応にホッとしている自分がいる。この関係を壊さずに済んだ安堵感などを覚えてしまっているのだ。ここまで自分がヘタレでチキンだとは思わなかった。
でも、良かった。
こんな真っ赤な顔、見られたくないし。
もっとスマートに。もっと理想の告白らしく。
最高の思い出に、なるように。努力しなければ。
水族館は、夜のライトアップが美しかった。七色に淡く輝く中、ふよふよとクラゲが浮いている。さながら、俺達の空気みたいに。
「綺麗だね」
ベタな台詞。
「ナッキーの方が綺麗だよ」
ベッタベタな返し。
ただ、どこか言葉を頭が認識しない。
つないだ手の感覚が、全てを支配していた。華奢で、ちいさくて、柔らかい、白いその手をきゅっと握る。そうすると、悪戯っぽく、きゅっきゅっと二度握り返してきた。
自然と顔を見合わせる。そうすると照れ笑いしか出てこなくて、結局俺達は目の前の幻想的な世界に視線を向けることになる。
「ナッキー、楽しい?」
「分かんない。分かんないけど、これ、脳が沸騰しそう」
「寝不足かもよ?」
「……意地悪」
んべ、と舌を出す彼女になんとか微笑み返して、俺は彼女の手を引いて進んでいく。進んでは立ち止まって、ほの暗い世界に広がる生命のきらめきを見る。
小魚が群れを成す。さながら、それは人間のように。多数派が強い日本という国の国民的魚であるイワシだろう。銀色の輝きが光源に照らされて美しく照り映えている。
だが一匹だけ、大きいイワシが違う方向に回遊している。
「あの魚、まるで私みたいだなぁ」
苦笑交じりにナッキーがそういう。
「なんで?」
「一人だけ、違うから。それだけで普通に生きていけないんだよ? 努力しなきゃならなかった。普通の輪に入るためには。でも、姿形が違うから、結局馴染めないの。にていても、結局混じれない。あのイワシは、きっと小さなイワシのきもちなんか分かりっこない。だって大きいから。でも小さなイワシもあの大きなイワシの気持ちなんかわからない」
「じゃあナッキーは違うじゃん」
驚くナッキーに俺は笑みを返した。
「ナッキーは群れの中にいる。ちゃんと他の人の気持ちを汲めて、馴染めている。このおっきな魚は、女子高で一人だけ男の俺の方が近いんじゃない? でももしナッキーだというなら、俺は嬉しいかな。俺達、似た者同士だし。それにさ……」
その大きなイワシも、ちゃんと群れに混じった。ちゃんと、群れに沿って動いている。
「こうして、大きなイワシも馴染めてる。輝羅梨は、ちゃんと人の気持ちが分かるし、だからこそ、こうして休日に俺に会ってくれたんだよね?」
そう話を持っていく。輝羅梨はこちらを見上げていた、何かを言おうとして、口を開け閉めしてたけれども、俺は畳み掛ける。
「好きだよ、輝羅梨。どんな女の子よりも、君がいいって思った。君しかいないと思った。色んな表情を見せてくれる輝羅梨が好きだ。できれば、恋人という立ち位置で、君という一等星を眺めていたい。その栄誉を、俺に下さいますか?」
輝羅梨は真っ赤になってから、そのまま踵を返し、走り出してしまった。
……振られたのか?
ショックで立ち尽くすところだったが、まだ明確な返事をもらったわけじゃない。
一縷の望みに掛けて、俺は走り出す。
ようやく輝羅梨を見つけたのは、新月の夜の下。満天の星空の下、公園のベンチに彼女は座っていた。
「輝羅梨!」
「こっち、来ないで……! あ、後で、返事するから! 今は、ダメぇ!」
「嫌だ。顔を見て返事を聞きたい」
「ダメだってばぁ!?」
逃げようとする輝羅梨を抱きしめて、そのまま視線を合わせる。
ニヤニヤしているような、真っ赤になって明らかに浮かれている顔を彼女はしていた。
「ニヤニヤしてるじゃん」
「うっさい! だから見られたくなかったの! こんなだらしない顔、好きな人に見せられるわけないじゃん! 乙女心分かってよ!」
「知らん。好きな人の嬉しそうな顔くらい、素直にみさせてくれよ」
「う、うー……」
観念したらしく、彼女は俯き、そして再び顔を上げた。真面目っぽいけど、でもどこか……不貞腐れたような顔。
「……こんな戦争ゲー好きな、欠点だらけの女の子を好きになるなんて。変わってる」
「変わってるのは、輝羅梨が一番知ってるでしょ? 一番付き合い長いんだよ?」
「確かに」
そう言って、彼女は確かに笑って、綺麗な笑みを向けてきた。
「大好きだよ、篝君。私を彼女にしてくれますか?」
どこまでもまっすぐで、誤魔化しようのない返事に、俺は思わず顔をそむけた。
「……輝羅梨の気持ち、ちょっと理解できた。そうだよな、こんな顔見られたくない」
「でしょ。でも、ほら。私も見せたんだから」
俺はどうしようもなくデレデレとした赤い顔を輝羅梨に見せた。
「ぷっ、あっはははは! 王子様が何て顔してるの! でも、こっちの篝君が好きだよ。すっごく嬉しそうで、幸せそうで……愛されてるって、分かるから」
「輝羅梨」
そう名前を呼んで、彼女は目を瞑ってつま先立ちをした。その小さな顔を捕まえて、俺はキスを――
――かつん。
「痛っ!?」「いてえ!?」
歯に当たってしまった。あからさまに輝羅梨は眉を吊り上げ、不貞腐れているようだった。
「初めてのキスなのにロマンチックじゃない!」
「じゃあ、やり直そうか」
「……うん」
俺はきっと忘れない。
初恋。初めてのキス。そして、二度目の初めてを。
天に広がる綺羅星の輝きの下――――
交わした、唇の感覚を。
きっと、いつまでも。現在も続く初恋は、キラリ輝いているのだから。
~星名輝羅梨ルート END~
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