十八章 ルートロック

  十八章 ルートロック


「どうするのですか?」

「何がだよ、メティ」

 急に理事長室に呼ばれて、そんなことを言われる。

 何を話そうかと話題を選ぼうとしていたところに飛んできた言葉に、考えが形にならず霧散する。

 心外だ、と言わんばかりに、メティは頬を膨らませる。子どもっぽい仕草と大人っぽい落ち着いた雰囲気がちぐはぐだ。

「もうそろそろ、誰か一人を選んでもよいのでは?」

「ええ……?」

「心底嫌そうですね」

「俺はこのままでも実際楽しいんだけどなあ」

「ヤキモキさせておいてお預けは一番いけません。ギャルゲー主人公として恥ずかしくないのですか?」

「いやそれ勝手に言ってるのメティじゃん!?」

「まぁ、そんなチキンでヘタレで愛しい貴方に贈り物です。いえ、ある意味赤紙ですね」

 封筒を貰う。蜜蠟の封を開けると、そこにはチケットが。

「水族館……?」

「デートに誘いなさい。彼女だと思った女の子を、誘ってくださいな。これは、貴方にさしあげた分です。……本当は、もう、心に決まっているんでしょう?」

 そう微笑まれ、俺は思わず顔をゆがめた。

 この馬鹿馬鹿しくて、くだらない日常が本当に好きだった。アホみたいにそれを享受していたかった。

 でも、俺は受け取ってしまった。俺からその距離を詰めたいという、魔法のチケットを。

 返すこともできるだろう。けれども、彼女の望んでいる王子様は――そんなことをしない。

「……行きなさい、学園の王子様。誰か一人を選んで、その顔で幸せだよと微笑んでください」

 フラフラと、俺は理事長室を出ていく。徐々にその足は加速し、彼女を――求めて走り出す。

 ――――俺が、恋人になりたいと思ったのは――――

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