三章 ガンマニア 前編

「うっはー、カッコいい……! やっぱ男はリボルバーだねぇ、うんうん!」

 ナッキー、君女なんだけど。

「あ……ロックオンバットだ……!」

 しおりんはパワ〇ロをしてるようだった。携帯機でできるようになったの、本当にありがたいよな。

「うあぁぁぁ……お腹空いたぁ……」

 真夜は今日もお腹を空かせていた。あ、ナッキーのとこいった。

「輝羅梨~」

「ええい、うっさい! あんた実家がカフェならなんか作ってもらえるでしょ!」

「お金とられるんだよ~!」

「私の購買パンだって金かかってるってーの! 大人しく腹ペコで過ごせ!」

「えええん、友達虐待だ~!」

 そんな彼女に、二つ選択肢。

「どう? ホットドッグか俺手製のお握り」

「おにぎり! ねえねえ、具は!?」

「一個目は某少女漫画オマージュの鰹節茹で卵醤油マヨ、二個目はウィンナー、それから三個目は普通に種なしの梅干し、四つ目はワカメご飯」

「全部下さい!」

「あげる。真夜が食べると思って、握ってきたんだ」

 俺も炊きたて食べたいし。昨日のご飯がえらい余っていたので握ってきたという次第。

 かれこれ何日か経つが、俺は真夜を餌付けしていると受け取られているらしい。何だか微笑ましく見守られていたが、どういう視線何だろう。

「わーい! さすが王子様! 素敵!」

「ふふん、せやろ?」

「でもなんかビミョー、男子手作りお握りとか」

「うん、俺も美少女に作ってもらいたい」

「ていうか気づいてる、かがりん? 真夜を餌付けしてる時の視線。なんか貴族の戯れみたいに思われてるよ」

「そんな雅やかな感情はないんだけど……」

「ご馳走様!」

「いや早えよ! もうかよ! 真夜、あんた少しは噛んだりしなさい!」

「噛んでるよ?」

「マジかよ……」

 比類なき速度だ。底なし、というわけではなさそうだが、誇張では何でもなく、成人男性四人分は食っている。

 おにぎりも俺の手より少しデカいので、最低でも七口はいるくらいなのに。

「卵と鰹節のやつ美味しかった! また作ってきてくれる?」

「もちろん。真夜が、男の手作り気持ち悪いとか思わないなら」

「思わないよ! ありがとう、篝君! ついでにホットドッグもください!」

「はい」

「わーい!」

「こら、甘やかさない」

「コンビニで買った後気付いたんだけど、俺学食に行ってみたかったんだよねー。メッチャ美味いらしいじゃん?」

「量が物足りない」

「ところがですよ、真夜さん。今日から特盛メニューなるものが出てくるらしいんだよ! 第一弾、ギガからあげ丼!」

「なにそれ! 超おいしそう! ホントに!?」

「ああ。噂聞いて、朝券売機に寄ってったら追加されてた。ついでにメティに聞いてみたけど、男子が加わったことで量に調整加える意味で特盛メニューが追加されるってさ」

「うおおお、男子万歳! 男子ありがとう!」

「……まさか、男子連中も食欲で称えられるとは思ってないだろうなぁ」

 ナッキーが微妙な顔をしている。俺も似たような顔だろう。

「というか、篝君って理事長と仲いいよね」

「あ、それ気になってた。どういう関係なの?」

「うーん、特別な話じゃないよ」



 幼い頃、俺はどんなスポーツでもできていた。そのせいで友達が多かったと思われるだろうが、俺が入ったチームが一方的に勝つので、段々敬遠され、一人で遊ぶようになっていった。

 彼女と出会ったのはその頃だった。

 何故か子供を眺めている、少し大きな彼女と出会う。

 一緒に遊んでくれて、そして俺の運動を凄いと言ってくれた。それがとても嬉しくて、俺はとても頑張った。サッカークラブに入って活躍してからも、メティとの遊びが続いた。

 メティの家にも行くことがあった。まだ実家暮らしだったメティとは一緒にゲームをして、いつも負かされていた。大人げないプレイだと思ったけど、俺に対して全力を出してくれる彼女がとても好きだった。

 そして、別れ際。両親の仕事の都合で、引っ越しとなった時。大きくなったら、銀のロザリオに見合う人間になる。そう宣言して、俺達は分かれた。

 会えなくはなったが、このロザリオが二人を繋いでいる。

 お互いに、どんな風に成長しているんだろう、と思ってるよな。

 そう思って時が過ぎ、そして、理事長室で、俺達は再会した。



「――って感じなんだけど」

「ドラマか!」

 真夜はどうでもよかったのか席に戻って寝息を立ててる。すげえフリーダムだ。

 その代わり、興味津々な様子だったのはしおりんだった。やってた携帯ゲーム機を置いて、鼻息荒くこちらに接近してくる。

「理事長は子供と遊んでたってこと?」

「そういうことになるな。それからメティは理事長になり、携帯会社の社長になり……って経験をしたらしい」

「再会のキスとかした!?」

「あ、忘れてた。今からしてくるわ」

「ええ!?」



 五分後。

 頬を押さえた俺が帰還した。黒服に囲まれて。

「迫ったら殴られました」

「ど、ドンマイ」

「これはもうナッキーに迫るしかないな」

「え!? いやいや、そんなことしてもつまんないよ! ちょ、うわ!? ち、近づいちゃ……その……あ、あ……きゃあああああああ!」

「へぶっ!?」

 二度目の拳、襲来。いいんだ、別に。特にダメージはないし。

「び、び、びっくりした! もう、背後でナイフキルしようと思って迫った敵と振り向きざまに目があった時みたいにびっくりした……!」

「さすがに冗談だよ」

「で、でも、意外に迫られるのって……うん。いや、やっぱダメだよ!」

「了解……。もう少し仲良くなってから仕掛けるムーヴにする」

「いや親しき仲にも礼儀ありだよ」

 じゃあどうしろと言うんだ。




 というわけで、学食に来てみた。

 真夜と一緒だったが、彼女は早速ギガからあげ丼の食券を買っていた。俺も同じものを買う。

「えへへ、楽しみだね!」

「これで、真夜の腹ペコ事情も改善されるといいんだけどね」

「ぜひぜひ!」

 果たして――

「はい、おまちどう」

 どむん。

 という音がよく似合う、デカい鉢に唐揚げが乗っかっている丼が出てきた。刻みのりと、なんかタレが掛かっている。味噌汁もセットらしい。

「おお、すり鉢!」

「男子の特盛ってこれくらい食べるんでしょ?」

「……か、かもね」

 食いきれるだろうか。いや、現役男子高校生である俺でも少し引くような物量だ。真夜は、とみると、目をキランキランさせていた。

「早く食べよう、篝君! 待ちきれないよ!」

「そ、そうだな」

 席を確保し、とりあえず食べてみる。

 あ、美味い。

 しょうゆベースのタレが掛かることによって、油がそこまで気にならない。

 味噌汁も挟めば、攻略は可能だ。量に目をつむれば、だが。

「……」

 三分の二を食べ終え、さすがにきつくなっていた。

「ごちそーさま。ううん、腹八分!」

「……残り、食える?」

「くれるの!? わーい!」

 そして三分も経たずに、俺の残りは食いつくされ。

 改めて、真夜の胃袋のデカさにビビるのだった。

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