「・・・そんな!何かの間違いですわ!」


ジゼルは、ジャンヌお姉さまの写しガラスを膝に置くと二つのスクロール手に取って火のそばで改めた。


セイムの脳内は錯乱し、胸中では激しい動悸がし、とても言葉を発することのできる状態では無かった。


そのスクロールとは、意味もなく定期的に確認していた。教会の『断罪対象者注意喚起報告書』の書体そのものだった。


二人は恐る恐るオレンジ色に照らされるスクロールを最後まで伸ばし内容を確認した。


「こんな。こんな事って・・・」


セイムには、浮きシップでの事件からここにたどり着くまでの一切の記憶がない。

それでも、その間にジゼルがなにか間違いを犯したなどという事は微塵も考えもしなかった。


それに彼には、明確な心当たりがあった。


「あいつらです、きっとあいつらが僕たちに罪を擦り付けたんです」


「セイムさん・・・」


ジゼルは顔を急激に曇らせて、こっそりとスクロールを丸めた。


「あそこにいた領主たちも脅して、こうなるように仕組んだに決まっています!」


「・・・お願いセイム。その話はもうやめて」


「こんなのあんまりです!ジゼルさんも僕だって何も悪い事なんてしていないのに!」


「セイム・・・!お願いします」


ジゼルは、目にいっぱいの涙をためてセイムの袖をぎゅっとつかんだ。


セイムは出かけた言葉を飲み込んで、立ち上がりどこかへ行ってしまった。


双子と猫は、その様子を驚愕と後悔にまみれながら、ながめていた。


「あ・・・!あの!やっぱり何かの間違いだよね!」


クウコが慌ててスクロールをバックに戻した。


すると、漂う険悪な空気をごまかすように焚火に掛けられたお湯が噴き出て、炎を悶えさせた。


猫が悠長に言う。


「ねぇ、ジゼルさん?僕たちは、君たちの事を疑っていないし本当に何かの間違いだって思ってるし、もしこの事が本当でも少しも気にしないよ?」


ミズキは、まん丸で金色の虹彩の瞳をぎょろぎょろさせて双子を少しだけ咎めるようにして言った。


「ありがとう、ねこさん」


「ミズキだよ。ここ特別に触っていいよ?」


ミズキは、そっと真っ白で毛むくじゃらの脇でジゼルの小さな手を包んだ。


「・・・ふふ、やわらかい。とっても」



いついかなる時であっても、孤独というのは最も恐ろしい物だ。


それは、この世界に限った事ではない。


湧き上がる後悔と、それらを唾棄する程の深い絶望に苛まれながら。


それでも、セイムは、ギリギリ焚火の光が届く場所へしか行けなかった。


所詮、ゲームだと言うのにあんなに必死になって。客観的に評価するならば恥れ者と呼ばれるのがふさわしいだろう。


教会に多大に貢献し、領主たちを守ろうとしたジゼルならばまだしも、薬草集めや農地の草刈りなどと言うNPCさながらの仕事しかしていない自分のようなプレイヤーが、声を荒立てて騒いでいい道理など、あるわけがない。


火から離れるとまだ少しだけ寒い。


セイムの考えが正しければ、あの連中はいまだに暗躍し良からぬことを企てているに違いない。その事を教会に忠告したとして話くらいは聞いてくれるかもしれないが。教会の断罪者の噂の中には、罪人の記憶を完全に消し去るだとか、見つけ次第即刻削除するなどと言った物騒な物もあるのだ。


そしてそれらは、全て、噂でしか語られる事はない。


この事に関してセイムは今までは感謝する程だった。力の無い自分などは、そうでもして貰わなければやはり、どうしても不安なのだ。


しかし今は、その事がどうしても不安だった。

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