仮面の女
季節がゆっくりと移り変わり、僅かな陽だまりに小さな花が咲きそれが散って、青々とした葉が筋張り始めた頃。
双子は、再び、深い森の奥の湖の畔にある大きな大きな木を訪ねて来た。
セイムとジゼルは、いつもの如く写真の様に代わり映えしない湖の景色を眺めていた。
昨日もおとといもその前も今日も、ほとんど動かないその景色は、僅かな変化の予兆が起こるだけでも二人はその事にすぐに気が付いてしまうのだった。
「セイムー!ジゼルー!元気にしてた!?」
クウコの身に纏うジャケットと小さなマントと、鞘に納められた短刀は、以前の物とは似ているが違うものだった。
「またきたよ」
カゼハの背中にも以前の『サジタリウスの瞳』に加えもう一丁新たな大口径ライフルが背負われていた。
「クウコさん、カゼハさん。こんにちは」
「こんにちは、クウコさん、カゼハさん・・・あれ・・・ミズキさんは?」
『ここだよ、セイム君、ジゼルさん。またおじゃまするね』
音も無く、気配もなく、セイムとジゼルの真後ろにふわりと降りて来た白い影は、巨大な猫のような生き物だった。
「な・・・!」
「なんですの!?いま、しゃべりませんでしたか?!」
「それ、ミズキだよ!」「スレイブ」
巨大な猫は、毛むくじゃらの手を舐めて、それから気持ちよさそうに顔を撫でた。
「つまり、あなた方は、普段お世話になっているミズキさんをスレイブにした。という事でしょうか?」
「ウヒヒ、そーだよ!」「寝る時あったかいし、足だってとっても速いんだよ?後で二人とも乗せてあげるね」
「そういう問題ではありません!あなた方!スレイブというのは・・・・!うん・・」
白い毛塊がジゼルの顎下をふっさりと押し上げて、出かけた言葉を遮った。
「もこもこしてますわ・・・・」
「でしょ!?」「なんかね、トカゲタイプとか鳥人タイプとか色々あるんだけどミズキは猫だったの・・・」
「スレイブは、一度契約してしまうと2度と戻れませんし、多くの制約が存在していると言われています。しかし、これは。これも、悪くないかもしれません・・・」
「ジゼルも、セイムをスレイブにしちゃったら?」
「ッ・・・・!私とセイムさんは、そのような関係ではありません!・・・ありません」
ジゼルから、ふすふすと空気が漏れた。
そのさなか、セイムはずっと双子を観察し話題が切り替わる潮目を探していた。
「ねぇ、セイム君に都市で鑑定してもらった事伝えたら?」
見た目に反して流暢な言葉で話すこの猫に、二人の胸は僅かに踊った。
「あ、そだ!セイムから預かってた積木ね。教会の鑑定でもわからないってさ!彫刻か・・・なんだっけ?」「コウゲイヒン?」
「そそ!コウゲイヒンじゃないかだって!あとね!」
セイムは、落胆もしたがそれ以上にほっと胸をなでおろした気持ちでもあった。
各々勝手に時間が流れて、クウコは、カゼハのリュックから一枚の四角いプレートを取り出し、ジゼルに手渡した。
「これ!ジゼルにお土産だよ!」
「え!?わたくしに!?よろしいのですか・・・?」
ジゼルは、顔に少しだけ血を通わせてクウコからプレートを受け取った。
「うん、ちょうどその人のおかえりなさいパーティーみたいなのやってて。ジゼル好きかなぁって!」
「これは・・・、ジャンヌお姉さま・・・・」
双子のお土産というのは、麗しい女性が活き活きと映し出された『写しガラス』だった。
「なんかね。遠くの大陸」「セーニャ大陸」
「そのセーニャ大陸を開拓して丁度帰ってきたところだったの!」
「ねぇ・・・。クウコ?あのこと聞いてみる?」
「ああ、そうそ!」
セイムは、ジゼルが元々教会のそれもかなり高位の騎士だったことを知っている。
だから、このジャンヌと呼ばれる女性は、きっとジゼルが昔お世話になった人に違いないと彼女の態度から薄々感じ取っていた。
ジゼルは、宝物に埃一つつけて堪るものかと言った様子でジャンヌお姉さまの映し出されたガラスのプレートを胸の前でしっかりと抱え込んでいた。
クウコは、再びカゼハのリュックに手を突っ込んでスクロールを二つ取り出して展ばして見せた。
「二人とも?超凶悪犯だったの??」
クウコが両手で伸ばしたスクロール、そこにはなんと、セイムとジゼルの顔と名前が写されていた。
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