白い月、青い虫
「セイムさん?ごめんなさい私ったら、驚いてしまって・・・。取り乱してしまいました」
ジゼルは、セイムよりも3歩ほど焚火の近くに立っていた。
「僕たちは・・・。僕たちは一体どうなってしまうんでしょうか?」
胸の内は意味もない不特定多数に向けられた申し訳ない気持ちで一杯だった。
しかし、セイムはその誰にも謝る気にはなれなかった。
「セイムさん、今日は、『大満月』の日だそうですよ?」
「・・・そうですか」
大満月とは、何サイクルかに一度訪れる月がひときわ巨大に見える現象の事を指す。
セイムは、この超月を過去に一度だけ見たことがあった。
その日は、雲一つなく晴れていて。辺りがしんと静まり返って。まるで世界の全てがその瞬間を固唾を飲んで見上げて、同じことを考えているような気がした。
そして、彼も確かにその中に『居た』のだった。
「本当は、それを教えたくて来てくださったみたいですよ?」
「・・・そう。ですか。でも、夜の森は暗くて危ないです」
たとえ今日がその日だとしても、この深い森からは見える場所は限られているし、その場所に移動するのは危険だ。
この深い森には、凶暴な動物はおろか虫すらあまり見かけない。
夜には青白く光るホタルのような虫が湖面を舞う事もあるが、それすら稀に思えるほど生物の種類は少ないのだ。
それでも、暗闇の森をうろつくなど危険この上ない行為だ。
それに。
そんなものを見た所で、何にもならない。
「セイムさん。そちらに、行ってもよろしいですか?」
ジゼルが2歩近づいた。
「いえ、僕も戻ります」
セイムは、立ち上がり、ジゼルと共に焚火へと戻った。
「ごめぇんセイムー・・・」「セイム、ごめんね」
双子は心配そうに謝罪し、お詫びのコーヒーを二人へ差し出した。
焚火に当たる二人の真ん中に座る大きな猫は、尻尾をぶりぶり振って二人の頭を何度もたたくように往復させていた。
「僕の方こそ、すみませんでした。きっと何かの間違いに決まっています」
セイムは爽やかな気持ちで差し出されたコーヒーを受け取り。
一度お礼を言って口を付けた。
以前飲んだよりもとても香り深く、それとなくコクがある気がしたがその事は黙っていた。
「ぁあ。美味しい。前に頂いたものよりもずっと美味しく感じますわね」
「ねぇ、ミズキ?」
「うん」
正面を向いていたミズキが一瞬で後ろ向きになって、慣れた猫歩きで焚火をぐるりと回りセイムとジゼルの隙間に挟まって落ち着いた。
二人はコーヒーをこぼさないように注意して、思わず香ばしいの毛を撫でた。
「月、見に行こ?」
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