弾弓1

セイムは、土の中から現れたそれが、一体何に使われる物なのかを考えひたすらに夢想に更けていた。


縦にして上から力を加えるとそれは、渋く縮んだ。もっともっと強く力を加えれば半分ほどの大きさにまで縮むかもしれない。しかし、無理をして壊してしまうかも知れない。もしかしたら、とんでもない発掘品かもしれない。


彼は、その発掘品を耳に近づけて振ってみた。聞き間違いではなかった。


中から、小石が暴れるような軽い音がする。


単純にガラクタかもしれない。


「セイムさん?なにか。わかりました?」


何かに夢中になると周りが見えなくなるのは、自分の悪い癖だと少しだけ反省し。彼は、ジゼルに意識を向けた。


「なにも・・・。押し込むと少しだけ縮むくらいしかこれは一体何なのでしょうか?」


「・・・気になりますか?」


ジゼルは、さり気なく表情を曇らせて積木を眺めた。


「いいえ。多分何の価値もない何かの入れ物か何かだと思います」


セイムは、眺めながら歩いていた積木を持ち慣れた手荷物を扱う態度に変えて数歩先を行く双子の背中を確認した。


「あ・・・・あそこ」


先頭をゆくカゼハが、梢の隙間の青空を指さした。


そこからは、大きな鳥が小さく見えた。


その鳥は、今まさに獲物を捕らえ意気揚々と巣に帰る途中のようで、その獲物とは見覚えのあるナマズのような巨大な魚だった。


「ミズキっ!!!」「・・うん!」


「カゼハ!あれッ!」「うん!」


双子は急激に加速して、カゼハがリュックから取り出した「弓」をクウコが受け取ると彼女は疾風のごとく森の木々の隙間を縫って巨大な鳥を追跡し、そのほか3名は必死にそれについて行った。


「は・・!はやい!」


「セイムさんっ!おはやくっ!がんばって!」


やがて、森の木々が僅かに避けている場所に到着する。


クウコは、日が当たる場所に足を踏み入れると即座に跳躍し、近くの岩を蹴り、木の幹の中ほどを蹴り、鉄棒のように枝にしがみついて一回転するとその上に乗り、それから枝のしなりを利用して空高く飛び上がった。


「すごい・・!!エレメントも使わずにあんなに高く!!」


辛くも追いついたセイムたちがその様子を遥か下から見守っていた。


そして、当のクウコは既に飛ぶ鳥を照星で捕らえていた。


力いっぱい引かれた弓から放たれた物は、猛スピードで飛んでいき見事に命中した。


巨鳥の悲鳴と羽があたりにばっと広がり、バランスを崩したそれは、不覚にも話してしまった獲物をすぐに追いかけ急降下した。


が、離れた所を同じように急降下している最中のクウコが携えていたブーメランを投げつけ、それを追い払った。


「ミズキ・・!!」


落下してきた魚にカゼハが息を切らしながら近づいて、セイムたちもそれに続いた。


クウコは、猫よりもずっと上手に着地して集団に加わる途中、流れるような動作で戻ってきたブーメランを捕まえ小さなマントの裏に戻した。


「だいじょぶそう?」


「この方が、あなたたちが探していたと言う方ですの?」


「うん!」「一安心だね・・・よかった」


目を覚ました襤褸に身を包んだプレイヤーは、セイムとジゼルに軽い自己紹介をして深々と頭を下げた。


がりがりにやせこけた体と、身を包む衣服も相まってその姿は見ているだけで二人の気分を滅入らせた。


にも拘らず、この人間はつい先ほどまでの壮絶な経験にあって欠片も疲れた様子を見せず、それでいて、舌の根の乾かぬ内に連発される双子からの我儘わがままに常に晒されながらも涼しい顔を貫いていた。


何処からかひょいと顔を出した胸の内の思いが、淋しさだとセイムが気が付いたのはこのすぐ後の事だった。

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