教会騎士ジゼル

ガンズロット氏は、ホールの逃げ遅れた人々に一瞬目をやって苦悶の表情を浮かべた。


「・・・わかりました。しかし、誰にも危害を加えないで頂きたい」


「約束しよう」


「皆さん!大丈夫!どうかご安心ください。この方々は約束してくださいました!」


リーダー格の男と共に、ホールを去るガンズロット氏は、振り返り宣言した。

その様子は、見る者の胸の内を苦しくさせた。



「お待ちなさい!!」



・・ジゼルさん?!


人々の顔が希望の光で照らされて、幾人かの顔は、捻じれていた。

そして、リーダー格の男はそのどちらにも属さず、ガンズロット氏と共に暗がりに消えて行った。



「お待ちなさい!!!!」


「駄目だってお嬢ちゃん、急いでんだから」



「やああッ!!」



「あれは!?先輩っ!」

「風の刃を纏った皿?!」


一瞬の動作で投げられたアンティーク調のお皿は、大勢の鳥の悲鳴に似たけたたましい音を立て対角線上に位置する二人の襲撃者に向かって弧を描いて飛んでいった。


「先輩っ!」「まだだ!」


「それが、あなたの能力ですね」


先輩と呼ばれた襲撃者の一人は、顔をしかめて舌打ちをした。

その両手に握られた短刀の延長線上には、ギザギザの刃を持った円盤が鋭く床にめり込んでいた。


「先輩・・?」


「あいつ、やるぜ。撃ち落とす瞬間に、ただの皿に戻しやがった」


「隊長を呼び戻した方が良いんじゃないですか?!ぼく行ってきます!」


「馬鹿野郎!俺一人でかなう相手じゃねぇ。手伝え」


「できるかなぁぼくに・・・」


「あなたがた!覚悟なさい!!」


「お嬢ちゃん、さっきあんたが投げた皿だけど。ありゃ、その辺で買えるしろもんじゃねぇ。そもそも、金で買おうってのが見当違いなオンリーワンの一品だ。この世界に一つしかねぇ、それもセットのうちの一枚だ。あんた、割ったな?2枚も」


「それは!あなた方を止めるためにやった事ですわ!」


ジゼルは、戦闘態勢すら崩さなかったが。その視線は、粉々に砕け散った2枚のお皿のパズルを目算で完成させようとしているようだった。


「ハッ!!!!!!!」


ジゼルの素を突くように。先輩は、下げていた短刀を横にふるうと追従していたギザギザの刃が宙を舞い。ホールの中を暴れ回った!


「皆さん!!どうか伏せていてくださいまし!!」


再三襲い掛かる円盤を寸での所でかわしながら、ジゼルは後ろに隠した手にエレメントを集中させると、それは、陽炎のように小さな空間を歪ませた。


「チィッ!」


先輩が、しびれを切らし二つの円盤で挟み撃ちを仕掛たが、最小規模の爆発的な上昇気流によってジゼルの体は浮き上がり円盤の隙間をすり抜け、着地と同時にキリモミ回転をしながら襲撃者に猛襲を仕掛けた!


「早ぇッ!!!!!」



「先輩っ!!」

「あ?ああ。弾けるか?」

「・・・何とかっ!!」


ジゼルは吹き飛ばされはしたものの、見えない風船が所々で彼女の体を的確にとらえ、結果として、状況は少し前と比べて大きな変化は無かった。


「仕切り直しですわね」


可憐な少女が放つ迫力に2名の襲撃者のこめかみから冷たい汗が二筋降りた。

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