しもやけの支配者
「なかなか、上手く行きませんね・・・」
「ええ、でも・・・」
「ジゼルさん・・・?」
慣れない努力をひとしきり試した二人は、シップ後部のバルコニーで夜風に当たっていた。
浮かない表情を浮かべるセイムとは異なり、ジゼルの表情は少しだけ晴れやかで、ひんやりとした月光をその頬で楽しんでいるようでもあった。
「この世界、本当にすごいですわ・・・。誰にでも得意な事があって・・・」
「はあ・・・。そうですね」
「踊りましょセイムさん。ここならば、あなたに頼らずとも誰かにぶつかったりしませんわ」
「え?でも・・・」
「元後言えば!あなたが誘った事ですのよ」
「そう、でした。すみません。・・・えっと。僕で宜しければ」
最低限の出力の障壁とはいえ、このバルコニーに風が吹き込むことは殆ど無い。
それでも、セイムの耳はしもやけのように痒くなっていた。
「ジゼルさん?もっと、元後言えば、誘ったのはあなたです」
「そうでしたわね。ごめんなさい」
遥か下の方で所々に見えていたキャンプファイアが消えて、月が傾きだしたころ。
「見えた。あのシップだ。お前たちの役目は冷却までの時間稼ぎだ。いいか、大事にするな、まだ早すぎる」
『了解』
「おーい、そろそろランデブーだよー」
「アイコピー。装備を確認、降下用意」
降下ランプが緑に代わり、ハッチが開かれる。
ここは雲の中、強烈な乱気流がガンシップの内側の隅々にまで侵入する。
「ステルスモード解除、ディフューザー起動」
「ステルスモード解除、ディフューザー起動。おーけー」
「降下。開始・・・!」
・・・・・ィィィィイイイイ・・・・!!
「この音は・・・?!」
「セイムさん?どうかなさいましたか?」
「聞こえませんか?」
「ええ、この曲は、さっきも掛かっていましたね」
「違います!ハムスター級ガンシップの音です!!」
「えっ!」
「イヤアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」「何なんだ君たちは?!!!」「皆さん!!!!!落ち着いて!」「みなさん!急いで部屋に戻ってカギを掛けて下さい!!!!!!!!!!」
ホールから、ありったけの割れ物を叩き壊し床にぶちまけた音と、沢山の人の悲鳴が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「静かにしろ!!!!!!!!うごくんじゃねぇ!!!!!!!!」
「このシップの責任者、今すぐ出てこい」
「あいつらだ・・・!」
「あいつら?セイムさんの言っていた村を襲ったと言う?」
「はい・・・。あの時は、見かけませんでしたけど、きっとその仲間です・・・!」
急激に沸騰する感情をセイムは、押しとめる事が出来なかった。
「あいつら・・・!ドロシーの事を聞き出してやる・・・!」
「ちょっと、セイムさん!落ち着きなさい。今、あなたが出て行けば危険ですのよ!あなたも、領主様たちも!ガンズロット様だって危ない目にあってしまいますわ!」
「・・・・でも!」
「・・!ガンズロット様・・・!」
「わたくしが、この浮きシップのオーナーのガンズロット・ソルマニコフ・サンサーンノースですが何か御用でしょうか?あなた方を歓迎した覚えはありませんが?」
天井のシャンデリアに頭が届くかというほどの体躯を滑空させるように滑らかに、リーダー格の男がガンズロット氏にゆっくりと歩み寄った。
そして、あと数歩というところで腰に帯びていた棒状の物体を伸縮させた!
それは、留まる虫すら切り裂くほど鋭利な長槍だった。
凄まじい速さで繰り出される一連の動作を見切れたものは、ほとんどいなかった。
青白い槍の先端は、ガンズロット氏の喉元にわずかに突き刺さり、彼のこめかみからは、冷たい汗が一筋降りた。
「『ブルーバード』はどこだ?」
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