雷のエレメント
現状は、セイムの想像とは少しだけ異なっていた。
彼は申し訳ないと思いつつ、作業に没頭するジゼルに声をかけた。
「ジゼルさん・・・。あの・・・」
「しっ仕方ないでしょ!クレジットは受け取ってくれませんし、まずは!何かの役に立ちたかったのですから!」
ジゼルはガンズロット氏にクレジットの受け取りを優雅に断られ、収まりが付かなくなった報恩の心は、たらいまわしにされ、最終的にシップに備え付けられた小さな厨房の裏でのイモの皮むきへと行きついた。
もちろん、セイムもそれに加わった。
背の高い、如何にも旅の求道者と言った風体のコックは、鎧姿のままで調理場に入ろうとするジゼルを強く叱責した。
なので、今の彼女は、一回り程肌寒い格好になって目元はいまだに少しだけ赤くはれていた。
こちらの方が、彼女には似合っている。と、セイムは密かに思っていた。
「セイムさん!あなた、よそ見していると指を切りますわよ!・・・いちゃ!!!」
「ジゼルさん?大丈夫ですか?」
「これくらい、何でもありませんわ・・・!」
「よかった。」
セイムは肌寒く頼りない姿を見せるジゼルに、親近感を覚え少し安心した。
大丈夫、ドロシーは、きっと大丈夫。
「ところでセイムさん?あなたキャスターなのよね?」
『キャスター』と言うのは、プレイヤー間でお互いを呼称する時に用いる名称の一つで、聞こえはいいものの、実際の意味合いとしては人並みに道具を
そして、こういったプレイヤー達にそれぞれ与えられる能力の強さや、性質などは一切が出鱈目である事もまた誰もが知る事であった。
「はい」
セイムは、久しぶりに自分に与えられた能力を思い出していた。
「いったいどんな能力ですの?」
「はぁ・・・。それが・・」
「ええ、教えていただいた方が何かとこれからお互いの為になるともいますわ。ま・・・まままずは理解を・・・。深めなければ・・・」
「ジゼルさん、少し手を貸してもらっていいですか?多分目には見えないと思うんです」
「えっ!よ・・・よろしくてよ・・・!」
セイムは、小さくそれでいて日頃の戦闘から、この世界の仕様によって守られたジゼルの手を取った。
「・・・・・・あっ!んんッ!!!ちょっと、セイムさんっ!あっ!おやめなさいッ!!」
「はい・・・。これが僕の能力です」
「ぴりぴり・・・。しましたわ・・・・」
「とても、弱い力しか出せないんです」
「あなた。まさか雷のエレメント操作が出来るのですか?」
「とても、弱いですが」
「噂には聞いておりましたが・・・。まさか、実在していたなんて。とても希少な能力ですよ?」
「・・・でも、一度も役に立った事なんてありませんし。こんな力じゃ弱すぎて自分の身を守る事だって・・・・」
二人の意識は、すっかりイモからお互いへと移り変わっていた。
ジゼルが目を見開いて、声のトーンを一段上げて言う。
「何を言ってらっしゃるの!?教皇さまくらいなのですよ!?雷のエレメント操作が出来たと言われているのは?!」
「本当ですか・・?!・・・でも・・」
この力がセイムの役に立ったことなど今まで一度も無かったが、彼が最も敬愛する教皇さまをすぐそばで感じると指先にまでにじわじわと力がみなぎる気がした。
『!!!』
すっかり、発見の余韻に浸る二人が気が付くと、背の高いコックが張り付けたかのような強面でこちらを見おろしていた。
反射的にジゼルが謝罪する。
「ご。ごめんなさい・・・」
コックは怒鳴るでもなく、グラディエーターのような腕をがっしりと組んで、鼻を鳴らしながら顎で背後のホールを挿した。
背後のホールでは、これから舞踏会が始まるようだ。
この時セイムは、久しぶりに少年らしく澄んだ思考になって、今なら何でもうまくできるような気がしていた。
「ジゼルさん、行きましょう!チャンスです!」
「えっ、でもこんな格好じゃ・・・」
「大丈夫、さあ!」
「えっ。ま、待って・・・!」
そして、二人はイモの皮むきを放り出して、昼間よりも明るく活気づいたホールの中へと飛び込んだ。
これは勿論、情報収集の為である。
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