オーロラサーフィン

「さあセイムさん。あの距離でしたら一っ飛びですわ。」


「いったい・・・なにを?!」


「何をってあなた、サーフィン?やった事おありで無いの?」


「あるわけないじゃないですか?!」


「何事も経験ですわ。さぁ、全身でエレメントの流れを感じるのです。・・・行きますわよ!」


水と草と土でできた2枚のボードは、上昇気流に乗って遥か高く舞い上がった。


「・・・・・・!!!!」


自分には、とても無理だ!そうに決まっている!


内臓が浮き上がる感覚で今にも失いそうになる意識を何とかとどめ、薄眼を開けて乱動する世界を見たセイムは、驚愕した。


「飛んでる‥!ジゼルさん!飛んでます!」


「しっかり、わたくしのオーロラを追って下さいな・・・!」


平原の青々とした草を撫でる風が見える。

鳴き声だけだったモゥモの群れが見える。


僕たちだけでは無かった。


各々採集や研究に励む沢山のプレイヤーたちがこちらを見ているのが見える。


そして、ジゼルを中心に渦状に広がる、エレメントのオーロラがセイムにも見えた!


「すごい!この世界!本当に!」


「ええ、飛べるのですよ?さぁ。浮きシップが見えてまいりました・・・」


「ヨークシャー型浮きシップ・・・初めて近くで。見た・・・。でもいったいどこから・・・!?ジゼルさん!」


「勿論、入り口からですわ。」


「そんな!無理ですよ!こんなスピードで・・・!ぶつかりますッ!!!」


浮きシップの側面に衝突する寸前で、ジゼルの体はふわりと浮き上がり減速し、乗船用の入り口の取っ手につかまった。


窓からは遊覧飛行を楽しんでいた領主たちが、突然外から訪れる非日常を大いに楽しんだ。


「さ。セイムさん」


「はい・・・!」


初めから、そうやってプログラミングされていたようにセイムの体は、船内に吸い込まれ、一瞬停滞し、厚手のウェルカムマットが敷かれた床に降りた。


まだ、足の感覚がおかしくて先ほどまでの瞬間が信じられなかった彼は、締められた扉の飾り窓から下の景色を見下ろした。


すると、小さな光の粒と共にすっかりほぐれたボードが、どんどん遠ざかっているのが見えた。


震えがして、セイムはその場で腰を抜かした。


人混みを優雅に避けて、大げさな歓迎のリアクションと共に一人の男が現れる。


「これはこれは!可憐な騎士様!!ごきげんよう!」


「ごきげんよう。領主様。わたくし。教会の騎士ジゼルと此方は、セイムです。もし、ご迷惑でなければ暫くこちらでご厄介になりたいのですが?」


「もっちろんでございます!!わたくしガンズロット・ソルマニコフ・サンサーンノースが命に代えましても皆さまの賛同を集めてご覧に入れましょう!!さぁ!ジゼル様セイム様!こちらにお部屋がございます。リアルでは、ホテルマンを務めておりますわたくしが、ご案内させていただきます。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。えっと。」


「どうもありがとう。ガンズロット・ソルマニコフ・サンサーンノース様」


「ウイ!」


今シーズンの彼らのトレンドは、とにかく褒める事だった。


「なんて、果敢なのでしょ・・・。」「凛々しいわ・・・。」「騎士様。麗しゅうございます。」「是非、後ほど。ご武勇談をお聞かせ下さませ。」「騎士様方には、いつも大変お世話になっております。」「塩隔地のガブリローズの香りだわ・・・・。」「なんとも心強い、浮き旅になりそうですな。」

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