浮きシップ

「ところでセイムさん?あなたのような非力なキャスターがなぜこんな危険な所にいるのですか?」


この辺りは、教会の勢力外に位置する大石平野と呼ばれる広大な草原地帯になっている。


セイムは、青と緑の鮮やかなキャンバスに描かれた美しい鎧姿の少女に目を奪われていた。


遠近感が狂いそうなほど広い平原の、どこからか湿った風が吹き、ジゼルの髪をなびかせた。遠くでは、どこかで『モゥモ』の群れが途切れることなく鳴いている。


「セイムさん!聞いてらっしゃるの?」


「ええ!実は・・・人を探しています。」


あの晩の出来事、もちろんそれに彼女が関係しているに違いないと思いはするものの、セイムはこれまでずっと正直者で、駆け引きのかの字もわきまえてなどいないのだ。


「人?どういった人ですの?」


ジゼルは、まだ一度も抜いていない最も上等そうな実体剣の柄に手をかけて立ち止まった。


「ドロシーという名の銀の髪を持った。女の子です。」


「その子といったいどういった関係ですの?」


「ただの・・・・ただの知り合いです。出会った時から、教会の依頼をいろいろ紹介

してもらいました・・・。その。ジゼルさん?」


「なんですの?」


「本当に、あの村での出来事を知らなかったんですか?あんな・・・。あんなひどい事を。ジゼルさん。だったらもしかしたら、僕を助けてくれたときみたいに。あの村の人たちも助けられたかも知れないのに・・・。」


「たとえ、その場に居合わせたとしても。わたくしに、そんな力はありません。でも、そうですね、あなたのお手伝いくらいでしたらきっと出来るはず・・・どうかご一緒させてくださいな?・・・だって。ぱーてぃなの、ですから・・・」


ジゼルは振り返り少し肩をすぼませて、銀色のガントレットの人差し指をちょんちょんつけて恥ずかしそうに言った。


「・・・!こちらこそ、よろしくお願いします!」


疑いの念が完全に晴れたわけでは無かったが。


動作の一つ一つに、自身をときめかせる可憐さを称える彼女と出会えたことを、セイムは、心から神に感謝した。


きっと、ドロシーも何処無事でいてくれているはずだ。


そんな根拠の無い希望をセイムは、信じていた。


パルパルパルパルパルパル・・・・・・


「ん?この音は。セイムさん!、見えまして!?向こうの空に『浮きシップ』が見えますわよ!」


「あれは、『ヨークシャー型』ですね」


「今晩は。せっかくなのであれに泊まる事に致しましょうか。」


「え、でも・・・」


「ご心配いりませんわ。度重なる任務で貯めまくったクレジットがありますゆえ」


「は・・・はぁ・・」


「さ、準備は宜しくて?」


ジゼルは、透明な容器に入った水筒の水を大地に蒔き、土と草と水にエレメントを集中させた。

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