栞の旅
嘘だらけの現実の世界と違い。
この世界に、神様は。確かに存在している。
「そこのあなた!わたくしとパーティーを組みなさい!!」
セイムは、あっけにとられていた。
それは彼女の纏う暴風があたりのエレメントと干渉し虹の光を放ち、揺れる草や巻きあがる塵にすらもそれらすべてに見とれてしまったからだった。
「・・・・あなたは・・?いったい誰なんですか?」
「えっ…!!えっとえっと、私の名前…?!しおり・・じゃなくて・・・。ジゼルよ!」
「ジゼル…さん?」
「そうですわ!!・・・あっあ!きゃあ!!!!」
ジゼルの纏う風が弱まり、すぐ下のセイムの上に覆いかぶさるように落ちた。
「あっ!!!ちょっと・・・おもいです・・・」
「失礼ね!!!!助けてあげたのに!」
「暴れないで下さい!」
セイムはどうにかして彼女を湿地に落とすのは避けたが、支えるだけで精いっぱいだった。
「全く!あなたのおかげでせっかく体を清めたばかりだと言いますのに。また、汚れてしまいましたわ!ちょっと、腕が下がっていますのよ!」
「・・・はい」
ジゼルは綺麗な川の水で汚れを清めながら、生きた目隠しと化したセイムに悪態をついた。
布一枚とは言え面積を自在に変える上質なマントは、特殊なルーンが施されており、あの騒ぎの中で汚れ一つついていないうえに、持っている手の方が持ち上げられている感覚を覚える程に軽かった。
そして、その襟にはやはり教会の騎士団のシンボルマークであるアザミの襟章が施されていた。
しかし、セイムは彼女があの凄惨な出来事に関わっているとは到底思えなかった。
そう思うには、あまりにもこの少女は、純粋に見えた。
「へっくしゅん・・・!」
「あの、ジゼルさん?聞いてもいいですか?」
「なんですの?」
「その・・・。どうして、助けてくれたんですか?なにか理由があるのでしょうか?」
「困っている人がいたら助けるのが当たり前でなくて?」
ジゼルがそう言って体についた最後の泡を洗い流すと、ちょうど下流の滝を、『流星鰻』が登り切り、勝ち鬨を挙げるように飛び跳ね、環状の虹を作るのが見えた。
セイムはその虹が消えるまでの間、どうどうと水が落ちている下流を眺めていた。
「実は僕、ちゃんとしたパーティーにお誘いされたの初めてだったんです。皆さん、大体僕より年上だし、あらかじめ誰かと組んでる所に入れて貰う事しかなくて・・・」
セイムがそう言うと、ジゼルは一段声のトーンを上げて答える。
「それっ!わかります!。私も、教会に入ってから何度か沢山の人と一緒に教会の任務をこなしてたんですけど!皆さん殆ど年上の方々ですし、お話も全然分からないですし。しかもみんな、恋人同士とか親しい関係の方々ばかりで・・・。ちょっとうらやましいなぁって、それで、ずーっと黙ってたら知らない内に皆さんから誘われなくなって、仕方ないから一人でモンスターとか世界樹の木を切り取りに来た悪党たちをやっつけてたらなんだか偉くなっちゃって・・・・。ますますみんな私から離れて行っちゃって・・・・」
「はぁ・・・。あのこれ、拭いてください・・・・」
命の輝きに満ちた色は、いつだってセイムをときめかせた。
それは、この時もそうだった。
「お貸しなさい!」
肩に掛けておいた、大変さわりごこちのよい『ヨーモー』の毛で編まれた総パイル仕上のタオルは、一瞬で、マントの中に引き込まれて消えた。
潮目のようなものを感じて、セイムは恐る恐る、村での出来事について彼女に尋ねる事にした。
「すみません。あの、あの村で何をしていたんですか?」
「そ!それより、あなた、お名前は?」
「僕は、セイムと言います」
「そう、よろしくセイム。あなたはキャスターね?私にバフだけかけてなさい?いいわね?」
水浴びを終えたジゼルは、一層眩しさを際立たせていたように見えた。
簡単な行水を、これほどまで効果のあるものにしたのは、ガブリローズの石鹸と水のエレメントを操作して振動させていたからだろう。
行水の最中、マントの隙間から見える、傷一つ無い体と。水面に映し出された尋常ならざる密度の波紋をセイムは見逃さなかった。
「はい」
セイムは、彼女を完全に信用したわけでは勿論ないが、猜疑心を上回る心強さを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます