湿地のハンター×3

何処からか陽気な歌が聞こえてくる。


セイムは急ごしらえで作られた幾つかの墓にお供えされた小さな花が、温かな風に吹かれて舞い散る様子を、ただ眺めていることを未だに辞められずにいた。


昨夜の襲撃から、村はいつにもまして活気づき、人々は何事も無かったのかのように変わらぬ生活を送っている。


数人の村人と、酒場の女中の一人であるドロシーを除いて。


「ドロシー・・・。」


昨夜聞いた叩きつけるような轟音が蘇る。


そして、あの女の子の騎士。


何か、きっと何か知っているはずだ。


「こんにちは、これで、買えるだけの薬草を下さい。」


「あいよっ!」


セイムは、村から旅立つ決心をした。


もしかしたら、あの女の子の騎士の向かった先に何かがあるかもしれない、そして、それは、ドロシーをさらった連中と何か関係があるかもしれない。


セイムは自分の中に探究心が力強く芽生えるのを感じていた。


この世界で、初めて、自らが望む程の明確な目的が生まれたのだ。


彼は広大な森林を超え、砂地を超え、桃色の滝を超え、そして、崖に掛けられた吊り橋を。


渡った。


(渡れたじゃないか…)


彼はすでに向こう側が霞で見えなくなった来た道を振り返り、それから人の通る道が刻まれていない大地に足を踏み入れた。


そして、何サイクルもの間ずっとそうしてきた沢山の勇敢な探検家たちを心のすぐそばで感じていた。


荒れ地を抜け、腰の高さまで揺すり草が生い茂った湿地にたどり着く、普段の彼ならば、危険に気が付き回り道をしていただろう。


限界を確かめるように沼地に真ん中あたりまで辿り着いた時だった。


「おっと、プレイヤーだ。」


「なんだ、ぼっちだし、餓鬼じゃねぇか」


「餓鬼がソロで行動するなんざ生意気なんだよ」


全身を泥まみれにして現れた3人組は、それぞれが青白く光る刃をセイムに向けていた。


「ハンター!?こんなところに?!」


「どうだかな?これから、ログアウトする奴に教える必要なんてあるわけねぇだろ?!」


先頭の一人が刃を振りかざしてセイムへと飛び掛かった。


「そんな!?なんで!どうしてです!?」


「待て!!兄ちゃん!あぶねぇ!!」

「なんだと!?うあっうああああああああ!!!!」


『にいちゃーーーーーーーーーン!!!!!』


「・・・・・あなた方、卑怯ですわよ?」


吹き荒れる暴風と共に現れた重厚な、鎧をまとった少女は、ハンターの一人を一撃で葬り去った。


目を開けていられない程の風を纏った体は、ぬかるみから少しだけ浮いていた。


「あなたは!?昨日の?!」


「む?」


「くそっ!!おいっ!同時に行くぞ!背後からの致命傷を狙うんだ!」


「クソくそくそっ!!!兄ちゃん!!!」


『うああああああああ!!!』


「なんだ!?こっここここいつは?!」


「つつつ剣が?2本?!」


『ああああああああああ!!!』


目にもとまらぬ早業とは、まさにその事であった。


「あなた?これでわたくしに恩が出来ましたね?」


少女は、あどけない笑顔を浮かべた。

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