マルバデバハダカトゲモグラ
「おーい!えっと・・・なんだっけ?」
「セイムですっ!!」
「そうだ、セインくん、そっち行ったぞー!!」
「はいっ!!!」
結局、遺跡の探検も新天地の開拓もPTの募集は無く、セイムは『マルバデバハダカトゲモグラ』の捕獲の一団に加わった。
マルバデバハダカトゲモグラは、丸みを帯びた鋭い一枚歯を持つ小型の生物で危険こそ少ないが非常に逃げ足が速い。
足元に逃げて来たマルバデバハダカトゲモグラにセイムは、常にラストチャンスだと言い聞かせ懸命に飛びついたが、これで逃がしたマルバデバハダカトゲモグラは実に5匹目になる。
「おーい、セイン君・・・。ちゃんとしてくれよ、変わるか?お前このハンマー使うか?」
「ちょっと、ゆーたー。やめなよぉ。」
「・・・・すみません」
ゆーたーが装備する大槌はそれ程発展的なものではないが、扱うのに強い力が要求されるものだ。
そして、それを振り回し、巣穴から奴らを追い出すことは、セイムにはできない。
「ゆーたーさん、もう一度お願いします・・!」
「セイム君も、もーいいってば!ありがとね。」
ゆーたーと元々パーティを組んでいたウィッチのマル猫は、あらかじめ仕掛けておいた罠を『エレメント』から精製した糸で回収した。
すると、砂の中から小さな檻を激しく揺らしマルバデバハダカトゲモグラが現れた。
この事は、セイムの感情を逆撫でした。
「マル猫さん!罠での捕獲は教会で禁止されているはずですよ!?」
「いいじゃなぁい、一匹くらい、手で摑まえるのも、罠で摑まえるのも一緒でしょ?」
「そーだな、」
二人の態度は、明らかにセイムを責めていた。
なまじ、目など見えるから。こんな感情を抱くのだ。
それでも、光の溢れたこの世界は美しい。
彼らのような汚れた奴らの巣窟の、空中都市『シャンデリア』さえも。今では、尊いものに感じた。
身を置けるパーティはまだ見つからないがチャンスは常に溢れているし、どんな内容であっても依頼をこなせば報酬が手に入り毎日がほんの少しでも豊かになっていく、それもこれも、点在する小さな酒場や馬小屋に至るまでに教会が情報を共有してくれているおかげだ。
そして何より、この世界の神様のおかげだと、セイムは常日頃考えていた。
彼は結局、終始役には立てなかったが、きっちりと三等分した報酬をもらい、硬貨の重さで歩くたびにジャケットの端が足に当たる感触を誇らしげに楽しんでいた。
酒場に戻る途中、夜中だと言うのに、向こうからプレイヤーらしき人物が足早に歩いて来るのがみえた。
頭から汚い布をかぶり、口元くらいしか確認することができない、その人影は他との接触を必死で避けているようだった。
「ここから先は、街なんてありませんし夜は、街道以外は危ないですよ?」
すれ違いざまに、セイムはそう忠告した。
「・・・・・・・」
ぼろぬので必死に隠していたが、青色で縁取られた白い鎧と、アザミの襟章は、確かに教会の、それも高位の騎士に与えられたものだとすぐに理解した。
(初めて見た・・・)
女性のソロプレイヤー、それも、同じくらいの年齢のプレイヤーを彼は初めてその夜に見たのだった。
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