第百六十四話 そして龍は、環を守る男の骨に棲みつく。
「君は俺のものだ。他のやつになんか
今野の欲情が環の中で爆発した瞬間、環はふわっと今野の身体を抱きしめた。環の愛らしい声が、今野の耳にそっと届く。
「ほかの人になんて、わたさない。もう二度とあたし以外のひとは抱けないカラダにしてあげる」
環の柔らかい肩の上で荒い息を吐きながら、今野は笑った。
「はは…すげえな。環ちゃん、俺は君にそうとう愛されてるね?」
今野がそう言うと、環は男の腕の中でコロコロと笑い始めた。
「ええ。そうよ。困ったわ、今ごろ気がついたんですか」
今野は環の肩に頭を乗せたまま目を閉じた。惚れた女の笑い声が自分の足りなかったところを埋めてくれるのを感じる。
温かくやさしく、まろやかな環。
今野哲史が守りたいと思い、自分自身よりも大切にしたいと思った初めてのひとだ。
「この
「――え?何か言いましたか、今野さん?」
今野の背中をそっと撫でていた環が少し身体をはなしてたずねた。今野はもういちど、ぎゅっと環のふわふわした身体を抱きしめなおした。
「なんでもない。男ってのは、オトナになるのに時間がかかる生きもんなんだって、言っただけだよ」
ふふふという声とともに、環の小さな手が今野を抱きしめた。
「今野さんはもう大人になりましたね?」
「とんでもねえ。まだまだ途中だ。君の手で、これから大人にしてくれよ」
「まあ、私が?」
環は心底おどろいたという顔で今野を見たが、すぐにいたずらっ子のように笑った。
「じゃあ、これから厳しくしなくちゃ。私はスパルタ式ですよ。なにしろ、
「やべえ、
環がほんわりとした顔で笑いながら、ゆっくりと目を閉じていくのが今野に見えた。
「ねえ――プロポーズしてくれて、ありがとう今野さん」
環のそばでともに眠りに落ちながら、
『プロポーズしてくれて、ありがとう』だって?
おれ、そんなにいいことをしたかな。
うちのよめは人が良すぎる。やっぱり、俺が守ってやらなきゃな。
★★★
静かな夜の中で、今野と環の眠るベッドの上をゆっくりと白い
ぐるりと優美なコルヌイエホテルのスイートルームを
ここが、遠い昔から白い
龍が彫り込まれた小さな
そして白い龍は、これから環を守る男の骨に棲みつく。
花を守り、花に乗りこなされる龍の呼吸が、今野哲史の息となって吐き出されては吸い込まれていった。
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