第百六十二話 このひとが、いとおしい

「あっ…あ」


藤島環ふじしまたまきのやんわりした身体が初めての快楽にみあがる。

その動きがまた今野こんのの欲情をあおり立てた。


「すげえ…冬瓜とうがんより君のほうがやわらかいよ、環ちゃん」


環はもう声も上げずに恥ずかしさと愉悦でふるえている。

今野は舌を使いながら


、俺しか知らないんだよな。俺の指とあれと口しか知らない。そう思ったら、もうたまらねえ」

「やだ…あっ…」


環の柔らかい身体が、今野の舌先ひとつでなよやかにもだえている。環の動きが声が体温が、逆に今野を駆り立ててゆく。

やがて環がゆるやかにのぼりつめると、今野はベッドのうえであぐらをかいて座りなおし、そっと環の身体を抱き上げて自分の上で休ませてやる。


「気持ちよかった?」


環は素直にうなずく。今野は恋人の薄く汗をかいたひたいにキスをして笑った。


「すげえかわいかったよ」

「ああいうこと…みんなするんですか?恥ずかしかった」

「他のやつらのことはどうでもいい。俺はまたしたいね。ねえ環ちゃん、頼みがあるんだけど」

「なんです?」

「こういう時だけにするから、きみのことを”たまき”って呼んでもいい?」


えっと、環が身体を起こして今野を見た。


「これまで環って呼んだことはなかったですか」

「ない。俺の知る限り、君のことを環って呼ぶのは紀沙きさ奥さんと北方きたかた先生だけだ。

音也おとやさんもさとしさんも、たまちゃん・環ちゃんって呼ぶだろ」

「ええ」

「じゃあ君を環って呼ぶ男は、他にいないね?」


環はしばらく考えていたが、じっと今野の顔を見て


「あなたが、呼んでくれますか」


といった。

うん、と今野は答えて環ののどもとに口を押し付けながら、手ばやくコンドームをつける。一秒でも早く環の中に入りたくて、もうどんながまんもできない。


「一生ずっと俺だけが呼ぶんだ、”環”って―――たまき」


ゆっくりと今野が男の動きを始める。それにあわせて、環のふんわりした身体が今野の膝の上で伸び上がったり小さくねじれたりする。。

今野は環の胸のあいだにで揺れている白い花模様のぎょくに唇をつけた。

環の体温を吸ってあたたまった白いぎょくは、環の身体と同じくらいに扇情的だ。


「すごいきれいなぎょくだな。だけど環ちゃん、君の身体の上に俺以外の男が贈ったものがあるのはしゃくにさわる」

「あ…ごめんなさい…」

「いいんだよ。君にとっては意味があるものなんだろ。だから城見しろみ監督から受け取ったんだよね。でも…腹が立つ」


今野が少し乱暴に腰を突き上げると、環の優しげな目がきゅっと閉じられた。

ふっくらした環の唇から漏れる甘い息に、今野の自制がゆっくりと断ち切られてゆく。


このひとが、いとおしい。

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