4「断章・白い龍」

第百六十一話 今野の身体は環のためのツール

★★★

「さっきの冬瓜とうがん、エロかったなあ」


コルヌイエホテルの優美なスイートルームのベッドのうえで、今野こんのたまきのふんわりした身体じゅうにキスをしながらつぶやいた。


「煮くずれるかどうか、ギリギリのところまでいてあってさ、上にとろんって卵白らんぱくのあんがかかって。ああもう食いてええって思ったんだよね、俺」

「おいしかった…です」


とすなおに環が答えるのが今野には可愛くてたまらない。

今野はそっと骨の太い指を環の柔らかいところに進ませながら笑った。


「あのとき俺が食いたかったのは冬瓜じゃないよ。わかるだろ?」

「…あ…っ」

「俺の目の前に好きな女の子がいてさ、ほんの数分前に俺の嫁になるって言ったところで、あの冬瓜だ。俺、君だと思ってあれを喰いつくしたよ」


そう言って、今野はじわりと身体をずらした。

しだいに今野になじんできたとはいえ、環はまだまだ経験が少ない。

初めてのことをやる時には、まずわけが分からなくなるほどに、環をとろかしてやる必要があるのだ。


環が今野のどんな愛撫も嫌がらないようになるまで。むしろ喜んで今野を受け入れるまで、まず環をかわいがる。

それは環のための愛撫だったし、今野のための喜びでもあった。


今野自身の身体が、環の快楽のために使えるツールだと気づいたのはいつだっただろうか。

環を、松ヶ峰邸まつがみねていのクラシカルなベッドで初めて抱いたときだったか?

それともあのおっかない上司・楠音也くすのき おとやの失踪中に、環の兄貴分・松ヶ峰聡まつがみね さとしの目の前から甘いクッキーをかすめるようにして環を一社いっしゃの家に拉致らちしていった夜か。


ともあれ、数回目のセックスで藤島環は男のカラダで快楽を得られることを知った。教えたのは、今野だ。

そしてこの先、このたのしみを他の男とわけあうつもりは毛頭もうとうない。

藤島環は今野のものだ。

なぜなら、今野哲史はもうとっくに環ひとりのものになってしまっているから。


今夜も甘くふるえる環のなかで解放されたい。そう思って、今野はあくまでも慎重に、ゆっくりと指を動かしてゆく。


「本当は、あの場で、君にこうしたかった」

「あ…っ、こんのさんっ」


環が今野の指一本で軽くのぼりつめたのを感じ取って、今野は本当にやりたかったことに取りかかった。

ひゅいっと身体をずらして、環の吸いつくような内ももに唇を当てる。


「…え?なに、今野さん?」

「大丈夫。冬瓜みたいにそっと食うから」


ひそり、と今野のくちが触れた瞬間、環の身体が跳ね上がった。

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