第百五十五話 君は、ただの女の子じゃない
「あれは十三年前、君が十一歳のことだ。おれは君が”
あの映画の子役アクションには
「たしかに…十一歳の時に日舞のおさらい会で”藤娘”を踊りました。えっ、では監督の映画に出てくる”
環は顔を上げて城見を見た。城見の目じりのしわが一層深くなる。
吸い込まれそうな、目元だ。
「この
だから君が生まれたときに、おれはこの玉を買った。君に渡したいと思っていたがおれから
かわりに、おれはこの
”白玉環の少女”は君と同じ年齢の、君に
紀沙がおれの映画を見てくれれば、あの子たちを通じて、おれが娘を愛していることが伝わると思ったんだ」
ほろっと、環の目から涙がこぼれた。それを城見の指がぬぐいとっていく。
環はつぶやいた。
「ずっと、私のことをおぼえていてくださったんですか」
「おぼえていたかって?当たり前だ、一瞬だって君と紀沙のことを忘れたことはない。
君はおれのたった一人のこどもだ。この世でただひとり愛した女の血を継ぐひとだ。ただの女の子じゃない、おれの、むすめなんだ」
「おばのアトリエには”白玉環”の絵ばかりがありました。あれはきっと、あなたにあてた
「おれは今でも愛しているよ。紀沙と、君を」
環は白玉環の入っているケースを胸に押し当て、ぽろぽろと泣いていた。
その涙を、城見はさっき環から受け取ったばかりの紀沙の白いハンカチでやさしくぬぐっていた。
三歳の環がころんで泣いていた時に、してやりたかったように。
五歳の環が初めての幼稚園で泣きだした時に駆けつけたかったように。
七歳の、十歳の、十五歳の環にしてやりたかったすべてのことを、城見は白いリネンのハンカチにこめて二十四歳になった娘の涙をぬぐい続けていた。
それからふと日本庭園の向こう側を眺めてつぶやいた。
「環、君ひょっとして
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