2「環と環と、ロレックス」
第百四十八話 城見龍里
★★★
十七時。
夕暮れどきと言うことで、ホテルゲストだけでなく巨大な高級ホテルで食事をしたり待合せたりしている人でいっぱいだ。
環はメインロビーのレセプションカウンターの前を通り――カウンターの中には、さすがに美貌のホテルマン・
メインロビーで明るくさんざめく人の中には、環と待ち合わせているはずの映画監督・
環はゆっくりとオープンラウンジを眺め、それからもう少し先まで行ってみた。
この先はコルヌイエホテルのショッピングエリアになっていて、有名ブランドが並んでいる。
そのショッピングエリアの手前に、小さなライブラリーラウンジがある。
基本的に宿泊・飲食ゲスト専用のラウンジで、入り口のドアは開いているがスタッフが常駐しているのでコルヌイエホテルをよく知るゲスト以外は入りにくい場所だ。
まさかここにはいないだろうと環がのぞきこむと、優雅な背もたれのついたチッペンデール風の椅子に座っている長身の、
男は手にした本をじっと見ている。
環がみていると、男はじっと同じページに目を落としたまま、
環は入り口にいるスタッフにそっと
環が近づいていくと、その気配に男は顔をあげた。
目じりはかすかに下がり、唇は厚めでハンサムと言うよりは
日本人とは言え、日本を離れてもう二十年以上がたっており、今では香港の映画監督としての知名度が高い。
この男が、
環は静かに男に声をかけた。
「城見さま、ですか?私は藤島と申しますが」
環が
笑うと口元と目じりにクッキリとしわが寄り、人好きのする表情がもっと柔らかくなった。
「やあ、こちらが見つけるつもりだったのに。失礼した―――ええと、少し待ってくれ、本にしおりを挟むから」
そういうと男は不器用に立ち上がり、着ている上着をパタパタと叩き始めた。
立ち上がると環が思ったよりも背が高いようだった。
聡や音也よりは低そうだが、今野よりは高い。ということは、百八十センチに近いだろうか。
城見は本を
環が見るところ、城見は左の内ポケットに何かを入れているらしく、そこだけがふっくらと
城見は左の内ポケットだけを上手によけて身体中をたたき
「おかしいな、どこかに飛行機のチケットを入れておいたんだが」
とつぶやいた。
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