第八十四話 君が恋しかった
「はあ」
「次々見せて悪いけど、映画のシーンで見てもらったほうが早いから。
今度はね、さっきの映画から四年あとのサスペンス映画。
十歳くらいの女の子が主人公のパートナー役をつとめているんだ」
今野が見せてくれた場面では、さっきの幼い子供に似た雰囲気の少女が、カンフーを使って押し寄せる男たちをつぎつぎになぎ倒していた。
香港映画らしく動きのキレが良い。それからまた今野が映画をとめる。
環はじっと画面の少女の首もとを見た。
「…あれですね、白い
「そうなんだ」
と、今野も何か考え込みながらフリーズボタンを解除した。
画面の中では、すでに美貌の萌芽を見せ始めている銀髪の少女が、軽快に悪役を倒していた。
今野の声が続く。
「この映画、”ゴー・レディ”はアクションサスペンスに父娘の話をからめたストーリーで、
「これ、見てみます。借りてもいいですか」
環が言うと、今野は半分以上聞いていないような声で
「うん、いいよ…ああ、やっぱりそうだ。
とつぶやいた。環は思わず
「はくぎょく…?なんですか、それは」
「さっきから見てもらっている女の子たち、
映画マニアの間じゃあ”
俺さ、
今野はスマホを取りだし、環の前で、一社にある
「俺も映画好きだからさ、ちょっと調べたらすぐにピンときた。それに―――あの子たち、君に似ているんだよ」
それから、今野は環の顔にじっと視線を据えた。
「君に似ているんだ、あの”白玉環の少女”が…
「私、太っていて機敏じゃないですし、パチンコもカンフーもできないですよ」
「そんなのはどうでもいい。全体的な雰囲気が似ているんだよ。ああ…だからなんだな」
環はわけが分からず、今野の顔を見た。
藤島環が、香港映画の子役に似ている?それもアカデミー賞にノミネートされるような有名作品の子役に?
ありえない。
環は平凡な人間だ。
確かに環の周囲には、地方財閥である松ヶ峰家を一手で切りまわしていた有能な紀沙がいて、若手政治家としての期待を一身に受けている
しかし、藤島環にはどこと言って特記すべき点はひとつもない。
美貌はもちろんなく、頭の良さも平均的で身長は百六十センチ、おまけに―――聡にも内緒にしているが―――体重は六十六キロある。
パッとしたところが何ひとつない環が、映画に出るような子役と似ているはずがないのだ。
しかし今野は環の顔をじっと見つめ続けている。やがて、すこしかすれた声で今野がつぶやいた。
「ゆうべはぶっとおしで城見監督の映画を見ていた。見ている間じゅうずっと、君が恋しかった」
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