第七十七話 甘すぎる声はきちんとひとつずつナンバーを振られて
そして音也の歯が、松ヶ峰聡の黄金の
音也の舌が指が、体温が。声が聡をゆすりたてた。そして深いバリトンが、松ヶ峰聡の
ふいに、聡の目の前で青空がひらけたように”
数百年続くと言われる
松ヶ峰聡でありながら、同時に音也の愛撫を受けるためだけに存在する、ひとりの男がそこにいた。
そして深い悦楽が聡の咽喉からあふれてくる。
身体の奥底からひたひたとにじみ出す愉悦は、たったひとつの名前をともなって
「おと…おと…」
「…うん」
ぐっと、音也が聡をきつく抱きしめた。
「いいんだ。いけよ、聡」
聡は両手でつかみしめている安っぽいスーツのジャケットにしがみついて、生まれて初めての完全な歓喜を味わった。
身体が、耳が脳髄が皮膚が、すべてが
乾ききった大地に
聡は足の爪の先まで伸ばしきって、初めての快楽をむさぼった。
「…音也っ」
聡のくちから、悲鳴のような声が放たれた。その声は
聡の甘すぎる声はきちんとひとつずつナンバーを振られて、あらかじめ決められた棚に収められてゆく。
まるでそこが、太古の昔から約束されていた場所のように。
そして
聡のふるえが、音也の舌の上に乗る。
それから音也は柔らかな声で最後の言葉を注ぎこんだ。
「あいしているよ。おれがほんとうに愛したのはおまえだけだ。だから聡―――何もかも忘れてくれ。おれのために」
バラ色の快楽の中で、聡の頭はちかりと気がかりなことをつかみあげた。
音也は何を言っているんだ?
あいしている?ほんとうに?
そして。
わすれろ?
松ヶ峰聡に意識があったのは、そこまでだった。
甘い悦楽に脱力した男の首筋に、音也の
薄れゆく意識のもとで、松ヶ峰聡が最後に見た音也は笑っていた。
この世にあってはならない花の前に、何もかもを投げ出して
そして、この先に何があるのか知りたくもないという顔をして、楠音也は最後のキスを聡の唇にのこしていった。
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