第六十九話 この恋が終わったら、俺は抜けガラ
「それだ
と言いながら
「あのひとも、お前を息子同様にかわいがっとるだろうが」
「
横井の隣に立つ
そう言いながら、ふと聡はにぎやかなコルヌイエホテルのバンケット会場のすみに立つ、美貌の秘書・
音也は横井の秘書である
平凡なグレーのスーツにグレーのネクタイを締めただけの姿なのに、音也はあたりを圧倒するような輝きを見せていた。
音也が笑えば光が満ち、音也が真剣な顔をすれば聡の身体の芯が熱くなる。
聡にとっては、なにもかも音也が起点になっていた。
美しく有能で、しかし冷酷さを隠さない親友が聡の行動を支配している。
この恋が終わったら、俺は抜けガラだなと聡は思った。
人でいっぱいのバンケット会場で、聡があまりにも音也に意識を集中させすぎたせいだろう、あやうく横井の言葉を聞きのがすところだった。
「そうはいってもな、よっぽどお前が可愛くなければ、北方さんだってあれだけのことをやってくれんぞ。結局、”自由党”はお前の対立候補を出さんと決めたらしい」
「はあ、そうみたいですね―――えっ、何ですって」
聡はまじまじと小柄な横井を見つめた。横井の身長は百六十センチたらずで、百八十四センチある聡よりぐっと小さい。小さいながらも独特の存在感があるのは、数回の副大臣をつとめた政治家の
聡は、政治家としてのオヤに当たる横井に、尋ね返した。
「自由党は、俺の対立候補を出さない?だけど今回は
そうだ、と
「だが、そいつは次の県議議長に決まった。衆院選は取りやめだ。
「先生。俺はちょっと話が見えませんが…自由党の
「そうだ」
「幹事長が、たかが地方の衆院選挙に口を出すだなんて、何があったんです?」
「―――なんじゃ、お前は何も知らんのか、
やがて、横井の口から容易ならぬことがもれた。
聡はもう、
「では…
「ま、そういうことだわな」
「御稲先生は、絶対にそう言うことをしない人ですが」
「わしもそう思った。しかしまあ、最後はお前が可愛かったということだ。初めての選挙をしくじらせたくないとまで、鹿島に言ったそうだぞ」
ちがう、と聡は思った。
むしろ聡をつきはなして、
それが、なぜ?
考えたとたんに、聡の頭の中でさまざまな
音也がひとりで行ったという御稲先生への”あいさつ”。
聡の事務所に届けられた箱いっぱいのシガリロ。
そして音也が持っていた、
「…音也か」
聡のつぶやきが、華やかにシャンデリアが輝くコルヌイエホテルのバンケット会場で、低く響いた。
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