第五十一話 環の柔らかい肉
白蛇のようなおばさんが
ただにらみ合ううちに、しだいに環は先ほどの勢いを失い、おびえた小動物のように小さくなった。まるで金属音の混じる女の呼吸音に、環の柔らかい肉がそぎ取られていったかのようだ。
環の背後にいる
その瞬間、今野哲史の顔は平凡な”お人よし”の表情になる。
それは、早くから家族以外とつるむことを覚えた今野が、
今野は小さな中年女性に向けて、無駄なほど明るい声で話しかけた。
「いやあ、ほんっとすごい家ですよね。あれでしょ、この家は文化財になっているんでしょう?そんな家を仮の選挙事務所として公開するなんて、
「まつがみね、せんせい?誰よ、それ」
女が目をぱちくりさせて答えると、今野はわざと
「うちのオヤジです、ボスですよ。
「…そうね。あの子の父親も評判のいい政治家だったわよ。聡だって、やればできるのよ」
いやいや、とここで今野は芝居の
「いくらお血筋が良くってもね、
まあね、と女はおしろいの浮いた目じりをゆるめて、ふんぞり返った。
「あの子については、あたしも”
松ヶ峰の子供は、やっぱり松ヶ峰の人間が育てないと。それに先代の当主だった兄と聡は血がつながっているけれど、紀沙さんと聡は血がつながっていたわけでもないし―――」
そこまでいって、女ははっと口を閉じた。
話を聞いていたはずの今野はさりげなく視線をはずして、女が
女はせわしなく
「まあつまり…そういうことよ、聡は
だからあなたはさっさとここを出て、聡を身軽にしてやりなさい。ここにはいずれ、聡の嫁がやってくるんだから」
女は最後に環に向かってそう言うと、足音を立てて部屋を出ていった。すぐにバタンと大きな音を立てて洋館の玄関が閉まる。
今野はふうと息を吐いて、環に向かってぼやいた。
「ほんと、よくしゃべるオバサンだな。オレ、おばさんは嫌いじゃないけど、ああいうのはいやだ」
それから今野がふと見ると、
「私の、せいだったんですね。
環ちゃん、と言って今野はそっと環の肩に手を置いた。
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