第四十七話 なにも言わずに来週
★★★
五月の連休が終わると、名古屋は一気に夏の気配をあらわにする。
アスファルトが溶けそうに暑い夏を前にして、町じゅうの人間のせわしなさが上昇する。
それは、東京とも大阪ともちがう“巨大な田舎”である名古屋特有の、自然に引きずられるような四季の
そんなことを考えながら、聡は大正時代に建てられた古い洋館・
そこへ、とんとんという
すぐにひかえめな、ノックの音がした。
「サト兄さん?お呼びですか」
「お呼びしたよ」
聡はひょいと
「早く入ってくれ、たまちゃん。俺がここにいるってことを、
聡は部屋から首を突き出し、
「音也さんに、みつかりたくない?どうしてですか」
環は濃紺の半そでワンピースに白いカーディガンをあわせている。非常に清楚なコーディネイトではあるが、ややぽっちゃりしている環が着ると色気は消え失せる。
聡はポリポリと頭をかき、
「あいつに見つかったら、ド叱られるんだ。ホントはもう商店街の夏祭り準備にいってなくちゃいけないから」
あらゆる場所へ行き、人に会い、顔と名前を売り歩く。それが今の聡に
だからほんとうは、初夏の夕方に自分の寝室にいるひまなどない。
環は白シャツにダメージジーンズをはいただけの聡のラフな格好をじろっと見て
「では、早く用をすませて商店街へ行ってください」
「うん、まあね」
と聡がグズグズと言いしぶっていると、ついにおとなしい環が眉間にうっすらと
それを見た聡はついに
「悪い!なにも言わずに来週、いっしょに東京に行ってくれ、たまちゃん」
「はあ?」
藤島環のふっくらとした丸い顔が、たちまちびっくりしたように伸びあがった。
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