第四十話 湧水で洗ったような、きよらかな目元
ちいさな弁護士事務所には、
「
ついでに言うとこの財団にはすでに事務所が用意されている。
「ああ、あの家か」
「あの家について知っているの?なら、話が早いな。あれは紀沙さんがご実家から相続されたものでね。十年くらい前に
へえ、と聡はつぶやいた。
「たまちゃんが、おふくろの遺品からあの家の鍵を見つけたんですよ。あの家と
聡がそういったとき、環は蒼白な顔いろのままふっくらした顎を引いていた。それから
ふだんおとなしい環にしては珍しいくらいの勢いだ。
「でも、そのお金も
環の言葉に、三木はかすかに笑って答えた。
「たしかに大きな金額だが、でもそれは紀沙さんが実家から個人的に相続されたものだから、彼女が自由に処分できる財産なんだ。それに、正直にいえば七億と言うのは
環はモッチリした指をひねくり回しながら、それでもまだ考え込んでいた。
「なあ、たまちゃん」
と、ここでようやく聡が口をはさんだ。
聡はゆっくりと、筋肉質の身体を三木の事務所にある古いパイプ椅子から起こした。そしておとなしい
環のふっくらした頬が紅潮している。
そして聡は、環の
ふいに心臓をつかまれたような気がする。
聡にとっては、この子だけが残された家族だ。
たまちゃんがいる以上、少なくとも俺のやるべきことが一つはある、と聡は口元をゆるめてそう思った。
「たまちゃん、頼むよ。引き受けてくれ。俺じゃ絵のことなんて全然わからないし、管理が面倒だからと、すぐに叩き売るかもしれない。だからおふくろはたまちゃんにコレクションを預けたんだと思うぜ」
ふう、と環は小さなため息をついた。
それが答えだった。
環は目の前の聡と三木を見て、口をひらいた。
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