第十三話 半分は本気
「急なことだったからなあ、おまえもびっくりしただろう、聡。しかし
聡ははい、と短く答えた。叔父はしばらくうなっていたが、やがて
「それで。選挙のほうは、どうなっとる?」
と二重になったあごをしゃくって、聡の後ろに控えている
音也は丁寧に一礼してから身体を起こしたらしく、聡の背後から
「これから本格的な準備に入るところです。初めてのことですので、なにもかも後援会の”
音也の深いバリトンの声を聴きながら、聡はまるで
そして音也と叔父が本格的に
その間も音也と叔父の会話は続いていた。やがて聡の意識は
そんな聡に、叔父がぎろりと目を光らせる。それから音也に向かい
「まったくなあ。あんたはずいぶんなキレモノのようだが、かついどる
「俺がおじさんぐらいしっかりしようと思ったら、あと四十年はかかりますよ」
そうだ、どうせ俺は政治家になんか向いていない。
だが松ヶ峰本家の男が聡ひとりしかいない今、聡は政治家になるしかない。
松ヶ峰聡は、家を継ぐためにこれまで育てられてきたのだから。
聡は、がちゃんと乱暴に玉露の入った茶碗を卓に置いて、いきなり
最近取りかえたばかりらしい畳からは、香ばしい青い草の匂いがした。
「おじさん!俺が頼りないのは百も承知ですが、ここは亡くなった母に
そう言いきって聡が頭を上げると、正面に叔父の顔が見えた。いつのまにか叔父の小さな頭にのせた丸帽子がずり落ちてきている。
よくよく見ると、叔父は涙ぐんでしきりに手で鼻をこすっているようだ。
「聡、よう言うた。それだよ。それが松ヶ峰家の誇りだろう。いや、わしには分かっとった。お前にはたしかに兄さんの血が入っとる。いつかお前も目が覚めると思っとったよ」
叔父は大きな音をたてて鼻をかみ、しかしティシュのすき間から厚ぼったい目で聡をじろりと見た。
「まあそれもお前が本気で言うたかどうか…どっちだ、聡」
「半分は本気ですよ」
聡もけろりとして言い返した。
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