幕間 とある総合武術部の休日

 ジン・テラヴァルカとその他5名が総合武術に入部した週のとある日曜日、その他5名を除いた総合武術部の面々は、紅葉の提案で親睦を深めようと、なぜか動物園に来ていた。

 

「親睦を深めるってのは百歩譲って分かるが……なんでその場所が動物園なんだよ!。あと最武達はどうした!?。」


 ジンが開口一番に文句を言う、と言っても文句を言いたい気持ちも分かるが……。


「他の人達は用事だって、まぁこれが決まったのも急だったからしょうがないよ。場所については紅葉がどうしても動物園に行きたいって言うから……、我慢してくれジン。」


「まあジン、親睦を深める場所に動物園はないってことはないだろ、ここはレディファーストの精神でだな……。」


 楓と新藤が今にも帰りそうしているジンを説得しようとしてるのか、丸め込もうしているのか、良く分からないことを言う。


「意味がわからねえよ、あと楓!俺は一応先輩だぞ、呼び捨てにすんな!」

 

「別にいいじゃん、紅葉には文句言わないくせになんで俺はダメなんだ?」


(……言えるわけねえだろうが。)


 ジンは後輩である紅葉に名前を呼び捨てにすることを許している。

 その理由はジンが紅葉との戦いに敗れたからという理由もないわけではないが、実際のところは「紅葉から先輩呼びされると、なんか距離を置かれた感じがして嫌だ」という青春真っ盛りなものであった。

 恥ずかしそうに顔を赤くさせたジンが、楓の質問をごまかすために大声を出す。


「だーーー!いいよ!特別に許してやる。」


「?、変な奴だな。」


 楓達が騒いでいると、動物に夢中になっていた紅葉がキッと男達の方に振り返り、注意する。 

 

「うるさーい!、動物が驚くでしょ、もっと静かにしなさい!」


 紅葉の目は真剣であった。

 言うことを聞かなければ物理的にしゃべられなくされる、と思うほどの圧力を感じた3人は、互いにアイコンタクトをとり、大人しく紅葉についていくことに決める。


 紅葉達が最初に見に来た動物は、ライオンであった。

 ライオンを見つけた紅葉は楽しそうに、雄ライオンの檻に近づく


「わぁライオンだ可愛いー!」


 そう言いながら、紅葉は、まじまじとライオンを観察し、時折ライオンに話しかける。

 その姿は子供のように見えるほど、無邪気で楽しそうだった。


~~30分後~~~


 紅葉は未だにライオンを笑顔で観察していた。

 

「おい!楓」


 ジンが楓に小声で耳打ちし、楓もそれに小声で答える。


「なに?」


「いくら動物好きって言っても、一匹の動物に30分は長すぎやしねえか」


「ああ、初めて実物を見るってのもあるんだろうけど、紅葉の使う技って、動物の動きを元にしてるだろ?」


「らしいな」


「ああやって実物の筋肉や骨の動きを見て、自分の筋肉や骨の動かし方の参考にしてるんだよ、その証拠に紅葉の目見てみ、顔は笑ってるけど……。」


「うわ!目がまったく笑ってねえ、真剣まじな目だ。」


「だろ、まぁ他にも動物はいるから、もう少ししたら動くだろ、と言っても動物ごとにこれくらいの時間をかけるからその辺はヨロシク。」


「マジかよ〜。」


 ガックリとうなだれるジン。

 新藤はそんなジンの肩をポンと叩く


「まあ、辛抱も精神修行の内だ頑張るぞ、ジン。」


「……脳筋修行バカが」


「うん?、なんか言ったか?」


「言ってねえよ!」


 それからしばらくすると、楓の言った通りに紅葉は「次、次ぃ~」と言いながら移動を開始する。

 そして、それからは、それぞれの動物にたっぷり時間をかけながら動物園を巡っていき、動物園の半分ほどを周ったころにはもう閉園時間が近づいていた。

 閉園時間が近いことに気が付いた紅葉は、残念そうに「かぁ」と言い、それを聞いたジンと新藤は


「やっと終わった……。」


「なげえよ、もう閉園時間じゃねえか……、というか俺ら必要あったか?」


と紅葉に聞こえないように文句を言う、それを聞いていたのか、聞いていないのか、紅葉は二人の方を向き申し訳なさそうにお辞儀する。


「今日は折角の休みなのに、二人とも私達に付き合ってくれてありがとうございます。……実は、こういうとこに来るのは初めてで不安だったの、だけど二人のおかげでとっても楽しかった。……本当にありがとうございます。」


 珍しく、しおらしい紅葉の姿に、ジンと新藤はうろたえる。


「別に気にしてねえよ、だから、そんなに申し訳なさそうに言うなよ。」


「そうだぞ、ジンの言うとおりだ。俺も動物園に来たのは、子供のころ以来だったから、意外と楽しかったぞ」

 

 そう言って紅葉のフォローをすると、紅葉表情が申し訳無さそうな暗いものから、パーっと明るいものなる。

 

「ホント!、それじゃあまだ半分しか周ってないし、来週も一緒に来よう!」 


と満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうに提案する。

 後に引けなくなった二人は、「「お……、おう」」と顔を若干引きつらせながら、紅葉の提案を承諾したのだった。


 なお余談ではあるが、今回本物の動物を観察できた紅葉は、観察結果をしっかりと自らの技に取り入れ、一人レベルアップしていた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る