第8話 金剛砕

 突然黒色のオーラを纏いだしたジンを見て、武道場内にいるジンを除く全員の顔が驚愕の色に染まる。


「お……おい楓、あれも「氣」の一種なのか?。」


 ジンが体の周囲に纏っているオーラの様なものを見て新藤が質問する。


「――確かに体外に放出するタイプの「氣」もありますが……、ああやって体に纏うような「氣」なんて聞いたことも見たこともありませんし、は可視化しています。「氣」は通常見えるものではありません。」


「つまりは「氣」ではないということか?」


「そうなります。しかし……、は一体何だ?」


 一方、ジンと対峙している紅葉は、ジンの使う謎の力を見てひどく動揺していた。


――何なのあれ……、「氣」とも違うし……、わけわかんない!?


 皆がジンの使う謎の力を目の当たりにして、驚愕し、動揺する中、力を使用している本人は、力の感触を確かめるように体を軽く動かす。


「よし!、久々にを使ったが……、問題ないな。それじゃあ反撃開始と行くか!」


 直後、ジンは未だ動揺している紅葉の隙を突き、一気に間合いを詰め、渾身の一撃を放つ。


 ――しまっ!?


 隙を突かれた紅葉は、ジンの攻撃への反応が遅れ、その一撃を腹部に喰らう。内臓がせり上がる嫌な感覚、その感覚と共に紅葉は武道場の壁まで殴り飛ばされる。 

 激しい激突音が武道場内に響き、武道場の壁に激突した紅葉は、意識を失いそのまま倒れそうになるも、何とか意識を保ち攻撃を受けた腹部を手で抑えながら、膝を震わせなんとか体勢を立て直す。


 とっさに「金剛身」で受けたけど……、正解だった。今のは「鉄身」では受きれずに倒されてた。ホントに何なのあれ、攻撃の威力も疾さも桁違いに上がってる。


 「金剛身こんごうしん」というのは神木流における防御技の奥義の一つである。

 「金剛身」の下位互換技に楓が以前使用した「鉄身てっしん」、「岩身がんしん」があり、「岩身」は技術、「鉄身」は氣、「金剛身」は技術と氣、をそれぞれ用いて相手の攻撃を防御するものであり、その名の通り「岩身」は岩、「鉄身」は鉄、金剛身は「金剛」を思わせるほどの強度を持つ、つまり先ほどのジンの攻撃は、紅葉が「金剛身」を用いなければ倒されていた程の威力を持っていたということになる。

 

 紅葉を攻撃したジンは、自らの攻撃を受け、なお立ち続ける紅葉を見ながら、自らの拳の感覚を確認していた。

 

 あいつの腹を殴った時の感触……、前に鉄の盾をぶち破った時よりも硬く感じた。あれが氣ってやつか、……面白れぇ。


 強敵との戦いに、思わずジンは顔を綻ばせ、再度紅葉に攻撃するために間合いを詰め連撃を放つ、紅葉も「金剛身」を用いて攻撃をさばきつつ隙を突いて反撃をするも、ジンにダメージを受けている様子は感じられない。


 ――攻撃が重いぃおっもいぃ、そんでもって硬すぎ!、普通の技じゃ通らない、……だったら「熊掌ようしょう!」


 ジンの攻撃の隙を突き、強烈な掌底打ちを放つ、ジンはその攻撃を防御し、受けきる。

 余裕の出てきたジンは、ニヤリと笑い紅葉を挑発する。


「はっ!効かねえよぉ!」


 紅葉は、自身の渾身の一撃すら効いている様子のないジンに驚く

 

 ――うそ!、今のも通らないの!。――ならっ!


 紅葉は再度攻撃を開始し、神木流の獣擬の中でも威力の高い技を選び、繰り出し続け、ジンの防御の脆い箇所を適格に突いていく


 こんな攻撃いくら受けようが効かねえが、防御が……。

 

 紅葉の攻撃は確実にジンの防御を崩していく、すると先ほどまで余裕のあったジンの表情が段々と険しいものへと変わってくる。


「「馬蹴ばしゅう」!、そんでもって「熊掌ようしょう!」」


 紅葉の放った回し蹴りと掌打により、ジンの両手が大きく広がり、体までのけぞらさせられる。

 ついにジンの防御が完全に崩され、更に体勢までもが崩された。


 ――しまっ!?


 ジンは焦り、先ほどまで紅葉がいた場所を見るも、そこに紅葉はいない

 

 ――どこだ!


 ジンは崩れた態勢を戻しながら紅葉を探す、直後、間合いの外で勝負の開始時と同じ構えをとる紅葉を見つける。


 なんでそんなとこに?、だが、こんだけ間合いが開いていれば)


 ジンは間合いが開いている隙に防御姿勢をとろうとするが、それよりも早く紅葉が動き出す。


「神木流「金剛砕こんごうさい獣擬式じゅうぎしき飛燕ひえん」……。」


 脱力した紅葉が床に倒れこむ、鼻先が床面に着こうかという瞬間、紅葉は突如加速し地面スレスレを疾走、一瞬でジンとの間合いを詰める。


(なっ!だがぁ!)


 ジンは間合いを一瞬で詰めらたことにより防御が間に合わないことを悟る。しかしそこで諦めることはしない、攻撃をそのまま受けきる覚悟を決め、全身に力を込めると同時に、自身の前に小さな盾のようなものを張った。

 

「からのぉ「犀突角撃さいとつかくげき」ぃ!!」

 

 スピードに乗った突撃と見紛みまがうほどの拳撃がジン張った盾を破壊し、そのまま腹部に刺さる。


「おごっ!」

 

 今度はジンが道場の壁に激突し、その音が道場内に響き渡る。

 ジンはそのまま武道場の床にに倒れこみ、気絶したのか、ピクリとも動かず倒れたままであった。

 紅葉はジンが立ち上がって来ないことを確認すると、残心を解く。


「わたしの勝ちぃ!!!」


 拳を振り上げ、ピョンピョンと飛び跳ねながら、嬉しそうに紅葉は勝利宣言を行う。

 紅葉の勝利宣言を聞き、ハラハラしながら観戦していた新藤がホッっと胸をなでおろす。

 

「よかった紅葉さんにケガがなくて、本当に良かった。」


 本当に心配していたのだろう、そう言った新藤の目には若干の涙があった。

 新藤のあまりの心配ぶりに、紅葉は呆れる


「もー心配しすぎです。それよりも私、勝ったんですよ。ハイターッチ!」


「ターッチ」


 新藤と紅葉がハイタッチしてうかれている中、楓は倒れたジンの様子を見てみる。

 紅葉が最後に放った一撃は、神木流でも最も威力の高い「金剛砕こんごうさい」という奥義の一種で、常人が喰らえば確実に死に至る程の威力のある技であったため、ジンの安否を確認する必要があったのだ。


「ジンの様子はどう?一応手加減したし、感触的にも生きてると思うけど」


 ジンの容体を確認している楓に気付いた紅葉がジンの容体を聞く


「生きてるよ、っていうか打撲程度で済んでるよこの人、一体どんな体してんだ……。」


 ジンの無事を確認した紅葉は、自らの拳を見ながらジンに最後の一撃を当てた瞬間を思い出す。


「体もそうだったけど、金剛砕がジンの体に当たる直前、なんか別のものに当たった感触があったよ。」


 紅葉の要を得ない発言に、楓は首を傾げる


「なんかってなんだよ?」


「私も分からないよ!、でも確かに体とは別の感触がした。多分あの黒いヤツに関係があるんじゃないかな。」


 黒いヤツ、ジンの使用した謎の力……、自分達の知らないなにか、楓にまた新たな悩みの種が増えた。

 しかし、今回は力を使った張本人がいる。

 それなら今は悩む必要はない、そう考えた楓は再びジンを見る


「……でどうする?こいつ起こすか?」


「うーん、起きるまで放っとこ」

 

~~数分後~~~


 武道場で寝かされていたジンが目を覚ます。


「あっ!起きた」


 近くでジンの様子を見ていた紅葉が、ジンの意識が戻ったことに気付く。


「大丈夫?体とかに異常はない?」


「問題ねえよ」


 ジンは寝たままの体勢でそっけなく答え、急に神妙な顔つきになる。


「おい……」


「おい、なんて人はいません、私の名前は紅葉!」


「も……、紅葉」


紅葉の名前を呼んだことが恥ずかしかったのか、ジンの頬が若干赤くなる。


「なに?」


「……負けたよ。」


「知ってる。」


 ジンは顔に両手を当てて悔しがる。


「だー、負けた負けた。魔力まで使ったのによぉ」


 子供の様に悔しがるジンを見て、紅葉は可哀そうに思ったのか、寝ているジンの頭に手を置こうとするが、その手を優しく払われる。


「慰めなんかいらねえよ、余計に惨めになる。なに、これからまた強くなるだけだ、次は絶対に勝つ、覚悟しとけよ!」

 

 そう言ってジンはいたずらっ子のような笑顔を紅葉に向ける。

 「そっか」と紅葉は返事をし、急にニヤニヤしだす。


「これからと言えば、や・く・そ・く、忘れてないわよねえ」


「げ!」


 紅葉との勝負前に交わした約束の事を思い出し、ジンはどうにかごまかそうと思考を巡らせるが


「ジン~、男に二言は?」


「ねえよ!」


無駄だった。


 こうして、総合武術部に新たに部員が6名追加され、剣術部は廃部となった。


~~双武学園某所~~


 武道場でのジンと紅葉の戦いが決着した時、そこには一組の男子生徒と女子生徒がいた。


「あら、ジン・テラヴァルカ君、新入生の女の子に負けちゃいましたね。」


 女生徒がまるで実際に見て来たかのように、勝負の結果を男子生徒に報告する。


「テラヴァルカは技術がまるでなってないからな、相手はあの神木流だ、負けて当然だろう。――で、どうするおそらく彼らは、の存在について知るぞ。」


「しばらくは放って置いても問題ないでしょう。時が来れば私が動きます。」


「彼らは君のらしいからな、その辺はまかせるよ。それでは解散することにしよう「すべての生徒が天賦の器たらんことを」。」


 そう言って男子生徒はその場を後にする。

 残された女子生徒は今後のことを思い微笑む


「本当に楽しみ……、その時が早く来ることを願うわ。」




『分離世界の英雄譚 第一章 入学編 完』  

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