第二章 魔力覚醒編
第9話 少女再び
ジンテ・ラヴァルカと神樹紅葉との一戦があった日の翌日。
双武学園の校内掲示版の前には、またしても人だかりが出来ていた。
昨日のジン・テラヴァルカと神樹紅葉の勝負の結果が、学園順位に反映され、掲示板に掲示されていたのだ。
しかし、今回はそれだけではなく、他の生徒の順位の変動も掲示されており、その内容は「以下の者の学園順位に変動があったため、報告する。1年A組 神樹 紅葉 51位、2年D組 ジン テラヴァルカ 49位、1年B組 王 小龍 52位 3年B組 天童 快児、 50位、これ以下の順位の者達については順位を1位ずつ繰り下げるものとする。以上、すべての生徒が天賦の器たらんことを」というものであった。
掲示板を眺めている生徒達からは
「おい!あのジン・テラヴァルカが、新入生のしかも女の子に負けたってよ!!」
「神樹 紅葉ってあの小さくて可愛い子だよな、そんな子が学園最強の不良に勝つのかよ!?」
「三年の天童も新入生に負けてるぞ、今年の新入生は一体どうなってんだ!?」
等といった声が次々と発せられ、掲示板前はそれなりの盛り上がりを見せていた。
そんな中、渦中の人物はというと、
「私、ジンに勝ったのに、順位がジンより下なんだけど。」
と頬を膨らませながら、掲示板の前でクラスメイトである
写は機嫌の悪い紅葉をなだめようと
「まあまあ紅葉ちゃん、学園順位はそうそう変動することはないんです。むしろ1回の勝負で51位になった紅葉ちゃんは相当すごいですよ!」
と言って紅葉をのことをフォローすると、紅葉の機嫌が見る見る良くなり、膨らんでいた頬が元に戻っていく。
「私、すごい?」
「すごいですよ、新入生で51位ですよ!!」
「楓よりもすごい?」
「もちろん!現在92位の楓君よりもすご……」
写しがそう言いかけたところで、紅葉を挟んで写の反対側にいた楓が「おい」と言いながら、写のことをジト目で見つめる。
写は楓が紅葉の隣にいることを失念していたようで、楓の存在に気付くとそっぽを向きながら「……くないような、そうじゃないような……」等と言ってとぼけ始めた。
すると写しは、神樹姉弟より早く登校しているはずの
「弾君!おはようございます。どうしたんですか?眠そうな顔をして。」
写の質問に弾は、「ふあ~。」と大きな欠伸をして、
「いや~、夜中に映画見ちゃって寝不足なんだよ、……ところでお前らは何でこんなところに?」
眠そうな目をこすりながらそう答えた。
弾は眠気のあまりに周りのことをよく見ておらず、掲示板前のにぎわいに気付いていない様子であった。
そんな弾に紅葉は「しょうがないなぁ」と前置きをして、
「この私、神樹紅葉は本日ランカー入りを果たしました。」
と、その慎ましい胸を張りながら自慢する。
紅葉の発言に弾は眠気が一気に覚めたのか、「マジで!!」と言って急いで掲示板の内容を確認する。
掲示板の内容を確認した弾は、楓の時とは違い、その顔に驚きとも畏怖ともつかないような複雑な表情を浮かべ、紅葉の方を向く、
「ジン・テラヴァルカってあの不良の?」
紅葉はきょとんとした顔で「うん」と頷く
「紅葉ちゃ……さん、学園最強の不良に勝ったんデスネ。」
弾の紅葉に対する態度が急によそよそしくなる。
どうやら弾は学園最強の不良に勝った紅葉に畏怖の念を抱いたようで、紅葉は弾の態度の変わりように気付き、その態度が気にくわなかったのか笑顔で弾に詰め寄る。
「どうして急に、そんな態度になるのかなぁ。」
「いや……その……。」
紅葉に詰め寄られ、冷や汗を流す弾、
「ねぇ~、私、教えて欲しいな~。」
更に詰め寄る紅葉、笑顔だがその目は笑っていない。
「ご、ごめんなさい!」
逃げるように急に走り出す弾、紅葉はそんな弾を「こらっ!!逃げるな~」と追いかける。
その場に残された楓と写は、弾が逃げ出した方向を向き「南無」と合掌をするのであった。
ちなみに弾はその後、身体能力の差から紅葉に捕まり、長時間の説教を受けた後、態度も元に戻されることになった。
~~放課後~~
放課後になり、教室で部活の準備をしていた紅葉は、楓の方を向き、
「さあ楓!、部活に行くよ~」
と、自分と一緒に総合武術部の武道場に行こうと誘うが、楓は
「今日は文芸部に行く予定だからパス。」
と、紅葉の誘いを断る。
楓に誘いを断られたことで、紅葉は頬を膨らませながら文句を言う。
「えぇ~、じゃあ今日は私一人で行くの~。」
「一人で行くのが嫌なら、手芸部にいけよ」
楓の提案に紅葉は、「えぇ~。」と言って、あまり気乗りしていない様な態度をとる。
紅葉は雫からの誘いで手芸部に入ったものの、裁縫などの細かい作業があまり得意でなく苦手意識を持っており、どちらかと言えば体を動かすことの方が得意であり、好きでもあった。
「う~ん、今日は動きたい気分だから、手芸部はパス!」
紅葉が総合武術部へ一人で行くことを決めたその時、
「それはなし、でお願いしますね。」
紅葉は背後から声をかけられた。
突然背後から声をかけられたことにより、紅葉が驚いた様子で後ろを振り向くと、そこには黒髪長髪の美少女、――学園順位3位の雫がいた。
((声かけられるまで
神樹姉弟は高校生ではあるが、それ以前に実力のある武芸者でもある。
幼いころより武術全般や気配の読み方、戦術等についても教え込まれ、その教えは体に染みついており、普段から人の気配には気を配っている。
そんな二人が、声をかけられるまで気付かないということは、それだけ相手が手練れだという証拠でもあった。
ましてや位置の関係上、紅葉の正面には楓がおり、楓に気付かれずに紅葉の背後に立つのは不可能であるのだが、雫は
そんな神樹姉弟の驚きをよそに、雫・ジフタリアは困った顔をしながら口を開く
「も~紅葉ちゃん、入部してからまだ一回しか
雫は
すると、ハッと我に返った紅葉が気まずそうに言い訳をする。
「……えーっとそれは少し忙しくて……。」
紅葉の言い訳に、雫は更に悲しそうな顔をして
「今日は来てくれないのかな~って思って、迎えに来たんだけど、もしかして迷惑だった?」
今にも泣きそうな顔をする雫に、紅葉は慌てた様子で
「そんなことないですよ!、私、裁縫大好きですし」
と、心にもないことを言って雫のフォローをする。
すると、先ほどまでの泣き顔はどこへやら、雫はパアっと明るい笑顔を浮かべて紅葉の手を握る。
「それじゃあ、早速今から行きましょう。――楓君も今度遊びに来てね。」
そう言ながら、紅葉の手を引いて手芸部へ向かって歩き出す。
紅葉は状況が理解できていないのか「っえ?……っえ?」と言いながら手を引かれるまま雫・ジフタリアに手芸部の部室まで連行されていった。
怒涛の展開に茫然としていた楓は、
「……さて、図書室に行くか。」
と、何もなかったかのように鞄を持って図書室に行くのであった。
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