第4話 学園順位
神樹姉弟の総合武術部入部が決まった翌日、神樹姉弟が登校すると校内の掲示板の前に人だかりができていた。
この校内掲示版には、通常学校新聞や、学校から生徒への連絡事項や行事予定等が貼られているが、通常人だかりができるほど人が集まることはない。
ではなぜこのように多くの生徒が集まっているのか、その理由はこの掲示板のもう一つの役割にある。
その役割というのは、校内順位の変動があった際にその結果を掲示するというものだ。
校内順位は、学園内における発言力にそのまま適用されると噂されている。
そのため、どの生徒も校内順位については常に注目しているのだ。
しかし、入学したばかりの神樹姉弟は、順位がまだついていない新入生ということもあり、あまり校内順位には頓着しておらず、自分達には関係ないと思っていた。
「なんか掲示板の前に人が集まってるよ、なんだろ?」
「さぁ?どうせ俺達には関係ないだろうし、教室に行くぞ。」
「そだね」
神樹姉弟が掲示板を素通りしようとした時
「おーい!!楓!紅葉ちゃん!」
と聞き覚えのある声で神樹姉弟は呼び止められる。
二人が声のする方を見ると、クラスメイトである種子島弾が興奮した様子で手を振り、二人を呼び止めていた。
「なんだよ。」
朝の弱い楓は、未だに眠そうな顔をし、面倒くさそうに答えた。
「いいから掲示板!!見てみろよ!!」
「俺らには関係ないだろ……。」
興奮して迫るように掲示板を見るよう促してくる級友に、楓は辟易としながらも掲示板を見る。
しかし、掲示板に掲示されている内容を診て楓は目を見開く。
掲示板にはこう記されていた。「以下の者の学園順位に変動があったため報告する。1年A組 神樹楓 90位、2年B組 最武良己 350位、これ以下の順位の者達については、順位を1位ずつ繰り下げるものとする。以上、すべての生徒が天賦の器たらんことを」
掲示板に記されていることが信じられず楓は呟く
「なんだよこれ・・・」
「すげえなお前、入学から1週間で学園順位入り、しかも全校生徒855人中の90位!ランカーじゃねえか、一体何したんだ」
「いったい何したもなにも、心当たりすらねぇ……。」
楓は入学してからのことを振り返る。
(いや……、あった。)
昨日の不良達による総合武術部襲撃、その際に楓が一撃で倒した男、不良達のリーダー格の男が自分は学園順位90位などと言っていたことを思い出したのだ。
「あれ・・本当だったんだ」
楓の言葉に、弾は興味深々といった様子で反応する。
「心当たりあるんじゃねえか、なぁ~なにがあったんだよ~、教えろよ~」
そう言いながら楓に迫り来る弾。
昨日あった事を一から話すのは面倒くさい、そう思った楓はなんとか話を誤魔化すことができないかと思案し、一つ思いついた。
「だけどおかしくないか、新入生は入学から1か月経つまで順位は出されないはずだし、それに相手の順位も230位って、俺は元々順位なしだぞ」
楓の疑問を聞き、弾は「確かに」と前置き
「それもそうだな」
そう言って考え込む、どうやらごまかせたようだ。
楓が話を誤魔化すことが出来てホッと安堵していると、後ろから
「それについては、私が説明しましょう」
と女性の声が聞こえる。楓達が声のする方を向くと、そこには一人のカメラを首から提げたショートカットの女子生徒が立っていた。
「あっ!
女子生徒に気づいた紅葉が、手を挙げて元気に挨拶をする。
「おはようございます。」
紅葉と挨拶を交わした女子生徒は、楓達のクラスメイトで自称情報通の大亀 写(おおがめ うつし)、情報通を自称するだけあり、入学して間もないというのに双武学園の全校生徒や教員、校則等様々な情報に精通している。
「コホン、で、楓君の疑問についてなんですけど、確かに新入生は入学から1か月経つまで学園順位は原則発表されません。しかし、順位が100位以上のランカーとなれば話は別で、たとえ入学から1か月経っていない新入生であっても、100位以内に入ると認められれば校内順位の対象になるそうです。ちなみに過去にも数回同様の事例があるそうですよ。」
「へ~そうなんだ、それじゃあ楓のもう一つの疑問は?」
写しの説明に感心した弾が写に更に問う
「これも過去の事例からなんですけど、ランカーがまだ学内順位のない新入生に負けた場合は、一つ前の順位に戻るみたいです。なのでこの最武先輩は90位に入る前は350位だったみたいですね。」
「元が350位って……、350位の人間が急に90位に入れるものなのか?」
「学園順位は、基本風紀委員会が管理していて、そう簡単に順位が変動することはないんですけど、特例で卒業時に卒業生から在校生に順位を引き継ぐことができるみたいなんです。なので最武先輩も卒業生から順位を引き継いだんだと思います。」
「……受け継いだ順位なのにあんなにイキってたのか、道理で弱すぎると思った。」
楓が呆れのあまりぼそりと呟くと写しと弾が「「うん?」」と楓の言葉に反応する。
そこで楓は自らの失言にしまったと気付くが既に遅く、二人はここぞとばかり楓に詰め寄った。
「「やっぱりなにかあったんですね(だな)、その辺詳しく教えてください(くれよ)」」
「あーそれはだなー」
どうやってこの面倒くさい状況を回避しようか、楓は顎に手を当てて再び思案する。
結果、「じゃあな」と二人に言い残し全力で走り出す。
どうやらて」誤魔化すことを諦めて、物理的に逃げ出せばこの状況を回避できると思ったようだ。
「「あっ逃げた!」」
すぐに弾と写も楓を追うが、本気で逃げ出した楓に追いつくことはできず、直ぐに見失ってしまう。
「あー見失ったー、どんだけ速いんだよあいつ……。」
楓を見失ったことを悔しがる弾に、後から追いついてきた写しが耳打ちする。
「なるほど……」
弾と写はニヤリと悪い顔で笑っていた。
~~~~~
弾と写を撒いた後、楓は校内を歩きながら考える。
(このまま教室に戻ってもあいつ等が待っているだけだ……。予鈴直前に戻れば、追及は避けられる。それしかないな。)
そう思い至り、予鈴の直前まで校内をブラついた後楓は、教室に入る、すると弾と写が仁王立ちで
「よう、待ってたぜ楓。」
「さあ、すべて吐いてもらいますよ。」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべる。
そんな二人を見て楓は「フッ」と勝ち誇ったかのように笑い、
「もう授業が始まるよ、残念だったな。」
と二人の前を通り過ぎたその時、楓の左右の肩が掴まれる。
「なんだよ、授業始まるぞ」
楓は面倒くさそうにして向き直り、二人の顔を見ると、その顔は不敵な笑いに満ちていた。
「楓君残念でしたねえ。」
笑顔のままそう告げる写に楓は、動揺する。
「な……なにが?」
「今日の一時限目は先生の急病につき自習なんですよ。」
楓の顔が驚愕に染まる。
「なんだと!」
楓がそう言うと弾の手が楓の肩を掴む
「もう逃がさねえぜ、楓。」
結局、楓は昨日の出来事をすべて話す羽目となってしまったのであった。
紅葉はそんな楓を見て
「ばーか。」
と一言残した。
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