第5話 試し合いと予期せぬ来訪者
放課後になり、楓は弾と写からの質問攻めから開放され、部活のために総合武術部の武道場に来ていた。
「はっはっは!それは災難だったな」
楓から今朝の出来事を聞いた新藤は笑う。
「笑い事じゃないですよ、最終的には他のクラスの奴らまで来て、……本当に大変だったんですから」
笑う新藤に楓が文句を言うと、「すまん、すまん」と新藤が笑顔で謝る。
すると、二人の話を横で聞いていた紅葉が不機嫌にそうな顔で楓の方を向き
「大変だったのは私だよ!楓が途中で皆から逃げちゃったから、紅葉ちゃんも一緒にいたんでしょ?って、今度は私に矛先が向いてホントに大変だったんだから。」
楓から他生徒への対応を丸投げされと、頬を膨らませながら愚痴をこぼした。
楓は紅葉の愚痴にを聞き、気まずそう鼻先を掻きながら
「それはごめん}
と素直に謝る。
流石に紅葉を置いて一人だけ逃げたことを気にしていたのだろう、その姿は飼い主に叱られられるのを待つ子犬のようであった。
そんな楓の様子を見て、言い過ぎたと思った紅葉は「はぁ」と息を吐き
「まあ、別にもういいけどね……。」
と楓のことを許す。
激甘である。紅葉に限った事ではないが神樹家の者達はとにかく身内に優しい、決して甘やかしているわけではないが、家族・親戚ならば謝りさえすれば大抵のことは許してくれる。
特に楓と紅葉はお互いに関してはその傾向が強い、それは双子であるからなのか、彼らの性格がそうさせているのかは不明であるが、とにかく甘いのだ。
そういったこともあり、二人はよく周りからブラコンだとかシスコンだとか言われているが、本人達はそのことを否定しており、決まって「「家族なんだから当たり前」」と口をそろえて言う、本当に仲の良い姉弟である。
そんな姉弟の会話を、父親のように微笑ましく見ていた新藤が「そうだ」と何かを思い出したかのように言う。
「部活開始の前に一ついいか?」
「「どうぞ」」
「俺は部活の時はこのとおり道着を着ているんだが……、お前達はその恰好でいいのか?」
武術に限った話ではないが、通常訓練を行う際には、その競技ごとのユニフォームを着用するのが常である。
しかし、神樹姉弟はそれぞれ私物のスポーツウェアを着用しており、新藤はそのことが気にかかったようであった。
そんな新藤の質問に、質問の意図を察した紅葉が説明する。
「ダイジョーブですよ!神木流は実践を想定した流派なので、訓練中は特に衣類の指定はないです。一応道着もありますけど……、着替えましょうか?」
「いや、
「「はい!」」
こうして楓達、総合武術部初の部活動が始まった。
~~準備運動終了後~~
準備運動とウォーミングアップが終わり、程よい汗をかいた新藤が神樹姉弟に向かって
「さて、次の訓練と行きたいところだが……、何分俺一人で活動していた時期が長くてな、なにか良い訓練メニューとかはないか?」
と楓達に訓練メニューについて相談する。
新藤の相談に、楓は腕を組んで「う~ん。」と考え提案する。
「一応新藤先輩にも合いそうなメニューは考えてありますけど……、新藤先輩の正確な実力が知りたいので一つ手合わせしませんか?」
通常、後輩から先輩へこのような物言いをすれば折檻ものではあるのだが、新藤は、そのお人好しの性格と、昨日の一件で楓が自身より強者であることを認めていたため、楓の提案に「別にいいぞ」と素直に応じる。
楓と新藤が武道場内の試合場に着くと、楓が口を開く
「ルールは目突き、金的、武器の使用はなしで、終了は俺が止めるまで、それでは……、開始!」
開始の合図と共に二人は
先に動いたのは新藤で、間合いを詰め楓に次々と鋭い連撃を放つ、楓はその攻撃を回避や防御を駆使しながら受け続け、新藤の攻撃の品定めをする。
(攻撃は……よし、次は……)
楓は防御の手を緩め、新藤の攻撃が自身の脇腹に来るようにあえて隙を作る。
楓の狙い通り新藤は、隙が出来た脇腹めがけて渾身の拳撃を放った。
ゴっ!、と鈍い音がするが、攻撃したはずの新藤が動揺した様子で大きな隙を作ってしまう。
楓はその隙を突くようにわざと、しかし、新藤の防御が間に合わないように拳撃を放った。
(間に合わない……、しかし!)
新藤は防御が間に合わないことを悟り、攻撃を受ける覚悟を決め、攻撃の当たる個所を見定めてからそこに力を込める。
ゴっ!再度鈍い音が響き渡ると同時に、新藤は顔を歪め、楓との距離を取る。
(やっぱりだ、この人……。)
楓は予想外の収穫に笑みがこぼれそうになるも、それをグっと堪えて構を解いた。
「もういいでしょう。」
楓の手合わせ終了の宣言を受け、新藤は拍子抜けしたような顔をしながらも構を解く。
思いの他にすぐに試合が終わったことに拍子抜けしたようだ。
「もう終わりでいいのか?俺はまだ続けられるぞ。」
「はい、新藤先輩の実力は分かりました。……ところで新藤先輩、「氣」って知ってますか?」
「「氣」ってあの中国拳法とかのやつか?」
「はい、厳密に言えば少し違うのかもしれませんが、体の中を巡っている見えない力のことです。さっき先輩は俺の脇腹殴りましたよね?」
「ああ、綺麗に入ったと思ったら、鉄の壁を殴ったような感触がしたから驚いたぞ」
「普通、鉄の壁を思いっきり殴ったら驚いたでは済まないんですけどね。」
呆れたように楓が言うと、新藤はきょとんとした様子で「そうなのか?」と言いながら自分の拳を見つめる。
(この人、妙なとこズレてるなぁ……、まぁ……だからこそか)
新藤の常人とはズレた発言に納得しつつ楓は続ける。
「俺が先輩に殴られた時に使った技……神木流では「
自身が無意識ではあるが氣を使っていると聞き、新藤は驚きと共に喜んだ。
新藤にとって「氣」というのはファンタジーの中だけでの存在で、憧れはあったものの自分が使用できるとは思ってもいなかったからだ。
「本当か!?」
「はい、そういませんよ先輩みたいに独力で「氣」を発現できる人……、で、これからの訓練についてなんですけど先輩には「氣」ついて学んでもらいます。「氣」のことを理解し、感じ取り、実践できれば今よりも確実に強くなります。」
楓の「確実に強くなる」という言葉に新藤は嬉しく思ったが、一つ気になることができた。
「わかった。しかし俺に合わせた訓練で本当に良いのか?それでお前達の訓練になるのか?」
新藤のいつものお人好し発言、これに楓は呆れつつも好感を覚える。
(まったく、本当にお人好しだな)
「大丈夫ですよ、今からする訓練は俺たちが普段している訓練と全く同じものですから、ですから先輩は気兼ねなく訓練に集中してください」
「わかった、それじゃあ訓練開始と……」
新藤が本格的な訓練の開始を宣言しようしたところで、武道場の入り口が開かれる。
偶然、武道場の入り口が見える方向にいた新藤が、入り口にいる人物を見て驚きの声を上げる。
「ジン・テラヴァルカ……」
そこには金髪で長身の男子生徒がいた。
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