6

 わたしときーちゃんは穴ぼこのなかで抱き合っている。辺りに広がる色彩は少し滲んでいて、輪郭はぼやけたように見える。わたしもきーちゃんも汗を掻いている。穴ぼこのなかは蒸し暑く、ぴったりと体を密着させているためなおさらだった。

 どういうわけだかわたしときーちゃんは服を着ていない。お互い素っ裸で抱き合っている。あまり大きくない胸を見られるのは少し恥ずかしいとわたしは感じる。けれども穴ぼこは狭く満足に身動きが取れないので、どうせきーちゃんがわたしの胸をしっかり見ることなど出来はしないのだった。ただ、裸の胸の感触だけが伝わるはずだ。

 きーちゃんのものが硬くなっていることもわたしはじかに肌に感じた。それはわたしの下腹部をぐいぐいと押すように反り返っているみたいだ。ほんの少し体をずらすと、上を向いたきーちゃんのそれをわたしのまばらな陰毛が撫で上げた。

 わたしはきーちゃんの首筋に腕を回し、体を上下させて股間を擦り合わせる。すると互いに濡れてきて、摩擦のたびにくちゅくちゅと水音が立つのだった。きーちゃんはわたしの動きに合わせてはあはあと熱い息を吐いている。きっとわたしの息も同じように上がっているのだろう。ひどく頭がぼうっとした。

 わたしはそのうちにきーちゃんの股間を擦ることに無心になる。どんどんどんどん擦り上げると、きーちゃんの股間もどんどんどんどん硬く大きくなってゆく。

 あ、いけない、と思ったときには手遅れだった。わたしが慌てて動きを止めてももはやきーちゃんの股間は成長を止めず、ものすごい勢いで膨らんでいく。わたしは穴ぼこのなかできーちゃんのものに圧迫されて息が苦しい。きーちゃんはどんな顔をしているのだろうと思って顔を上げたのに、顔が見えなかった。わたしの目の前には、膨れて大きくなったきーちゃんのものがあった。

 わたしはとっさにそれを口に含む。歯を立てないよう口を窄めて、しゃぶったり舌で舐めたりする。唾液が口の端からこぼれた。きーちゃんのものはそのうちにわたしの口のなかいっぱいになってしまい、喉が苦しくなって我慢が出来なくなり、わたしはそれを吐き出してしまう。

 わたしの口を離れたそれは相変わらず成長を続けていて、ついには穴ぼこを飛び出してしまう。わたしは夢中できーちゃんのものにしがみついた。すると体がぐいっと持ち上げられて、気がつくと地面に尻もちをついていた。どうやら穴ぼこから押し出されたようだった。

 穴ぼこのなかが少し広くなったからか、きーちゃんのそれはさらに成長の勢いを増した。わたしは大きな影を地面に落として聳えているそれを見上げた。それは、巨大なきのこだった。傘は小さめで、柄の部分が太かった。

 わたしは穴ぼこの前まで這っていくとなかを覗き込んだ。巨大なきのこに追いやられて、きーちゃんの体はずいぶんと下のほうに見えた。わたしは穴ぼこの底に向かい、「きーちゃあぁん」と叫ぶ。あぁん、あぁん、と声が反響した。


 目が覚めた。ゆっくりと目を開けるときーちゃんの頭が見えた。夢の続きかとも思ったが違った。虫の死骸の蒸れたようなにおいが強烈に鼻腔を擽る。どうやらわたしは、穴ぼこのなかできーちゃんと抱き合っているうちに眠ってしまったのだった。

 どのくらい眠っていたのかはわからない。頭上から差し込んでくる光があるので、そう陽は落ちていないはずだ。もうすっかり頭は冴えていたのに、わたしはきーちゃんに声をかけることが出来なかった。もう一度瞼を閉じ、眠っているふりをする。

 きーちゃんの手がわたしの胸の上にあった。この狭い穴ぼこのなかできーちゃんがどうやって手を移動させたのかはわからない。ただ確かに骨張って大きな手がわたしの胸の上にあり、それは静かにわたしの胸を揉みしだいているのだった。

 きーちゃんは捏ねるように何度もわたしの胸を揉み、服の上から突起を撫でた。顔はわたしの首筋にうずめられていてよく見えないが、ときおり鼻の先がわたしの首を撫でるのが擽ったい。びりっと電流が走りそうになり、わたしはこぼれそうになった声を必死に抑えた。

 わたしが目覚めたことにきーちゃんは本当は気がついているのかもしれない。けれども動揺ひとつ見せずただ黙々と、わたしの胸を揉み続けていた。わたしは息を殺す。頭のなかがぐるぐるとしてきてわけがわからなくなり、けれどもわたしは昔、泡のついた手できーちゃんに体じゅうをくまなく撫でられていたときのあの感覚を思いだす。とうとう我慢が出来なくなって、わたしはぶるっと身を震わせてしまう。

 夕方になればきーちゃんは何事もなかったかのようにわたしを起こし、わたしも素知らぬふりをしてきーちゃんと並んで穴ぼこを出た。きっと帰り道の途中ではスイミングスクール帰りの朝子が待っていて、わたしたちは少しばかりたわいもない話をするだろう。それからカルキのにおいが遠ざかるまで朝子の後ろ姿を見送ると、またどちらからともなく泥みどろの手を繋いで家路に着くのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る