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わたしたちはもぐらごっこに熱心だった。
朝ごはんを食べ終わるとすぐに雑木林に向かい、狭い穴ぼこのなかで二人体を密着させて抱き合う。昼どきには一度家へ戻るが、すぐにまた出掛けていって穴ぼこのなかで抱き合った。体を合わせる前からもう、きーちゃんの股間は硬くなっている。
両親は最後の夏と大目に見てくれているのか、朝早くに出掛け毎日泥みどろになって帰ってくるわたしたちがいったい何をしているのかを訊ねてくることはなかった。
やぶ蚊に食われた部分を擦りつけるふりをしながら、わたしは自分の股間できーちゃんのものを擦る。スカートは大概いつもめくれ上がっているので、パンツときーちゃんのズボンの前が何度も擦れ合った。すると布地越しにきーちゃんの股間はますます硬くなるのだった。
きーちゃんは何も言わないが、ほんの少し頬が紅潮し、息が荒くなる。わたしはきーちゃんのその様子を眺めているのが好きだ。もっと股間を擦りつけようとして、ふいに、これ以上硬く大きくなってしまっては体が圧迫されて二人で一緒に穴ぼこのなかに居ることが出来なくなってしまうのではないかという懸念を思いだし、やめてしまう。
きーちゃんは呼吸を荒くして、しばらくわたしの頭を抱えている。きーちゃんにきつく抱きしめられているわたしの息も、同じように荒い。そのうえパンツは湿っている。股間の中心がずきずきと痛んで熱を持っているのは、きっと摩擦の刺戟のせいだけではないのだろう。
これが男の人なのかなあ、とわたしは思う。それからすぐに、でもきーちゃんはきーちゃんだよなあ、とも思う。
朝子は夕方、スイミングスクールのあとでわたしたちを心配して訪ねてくれる。それはたいていわたしたちがもぐらごっこを終えて帰路に着くころなので、全身泥みどろのわたしたちを見て、朝子は「あんたたちはまた何かいけないことをしているね」と笑う。スイミングスクール帰りの朝子からは、カルキのにおいが幽かにする。
「そうかなあ」とわたしたちは顔を見合わせる。
「いけないことかなあ」
「いけないことかなあ」
「いけなくて、面白いことでしょう」
「そうかもしれないね」
「そうかもしれない」
いけなくて面白いことをするのは、わたしもきーちゃんも昔から大好きだった。服の交換やお医者さんごっこはもちろん、一緒にお風呂に入れば全身に泡を擦りつけ合って遊んだ。泡のついた手できーちゃんに体じゅうをくまなく撫でられると気持ちがよかった。あのころわたしの胸はまだちっとも膨らんでいなかったし、きーちゃんのものも小さく可愛らしかったが、オーガズムと言われればわたしは迷わずあの感覚を連想する。
「ほらごらん」と朝子は笑い、朝子が笑うと、濡れた水着の入った手提げ袋がぶらぶら揺れた。カルキのにおいがする。
「スイミングスクールは面白い?」
「どっちでも。濡れると水着がぴったり体に吸いつくのが好きじゃない」
「きのこは?」
「まだ」
「もうすぐ、朝子ともお別れなんだね」
神妙に頷いた朝子は、それから少し考えるような素振りをし、「でも、一生逢えないわけじゃあないんだし」と言った。それはもっともな意見だったので、わたしたちは顔を見合わせ、少し笑った。
水着の入った手提げ袋をぶらぶらさせながら朝子が帰っていくと、カルキのにおいも遠くなる。わたしときーちゃんは朝子の姿が豆粒みたいになって、完全に見えなくなるまで見送った。そうしてどちらからともなく泥みどろの手を繋いで家路に着く。
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