第174話 ビームライフル

 結局、ビームライフルが完成するのに、一年間という歳月が必要だった。最終テストをするために、俺と河井がビームライフルを持って耶蘇市へ向かった。


 異獣を相手にビームライフルを試すつもりなのだ。

「何を相手に試すんだ?」

 河井が質問した。

「オークかマーダーウルフを相手にしようと考えている」


 耶蘇市の全域には、スライムとゴブリン、それにネズミ系の異獣が繁殖している。そして、それらを獲物として狙うオークやマーダーウルフの数も多くなっていた。


 俺と河井はビームライフルを持って街だった場所を歩き回る。建物のほとんどは崩壊し、更地に戻っていた。スライムがコンクリートを食べる習性があるので、そのせいだと思う。


「ここに街があったとは、信じられないな」

 河井が周りを見回して言う。

「そうだな。完全に自然に戻っている。初めて見た人は、異獣の森だと思うだろう」


 地面に目を向けると、雑草の間をスライムが這い回っている。そして、遠くから狼の雄叫びが聞こえてきた。


 スライムをビームライフルで倒すのは効率が悪いので、試そうとは思わない。スライムなら散弾銃みたいなものが適しているだろう。


 スライムを無視して獲物を探す。やっとオークと遭遇した。昔は牛刀を持っていたのだが、最近生まれたオークは、牛刀は持っておらず棍棒を持っている。


 俺はビームライフルを構えてオークの胸を狙う。このビームライフルには切り替えレバーがあり、ビームの種類を変えることができる。種類と言っても直径一センチほどのまま遠くまで届く通常ビームと少しずつ拡散して二十メートルの位置で直径三十センチほどまで太くなる拡散ビームの二つである。


 拡散ビームは拡散した分だけ威力がなくなり、距離五十メートルほどでダメージを与えられなくなる。今回は通常ビームモードでオークに向けて引き金を引いた。


 太さ一センチほどのビームがオークの胸を貫く。走っていたオークが転び、倒れた地面に血を吐き出す。オークは起き上がろうとしたが、その動きはのろのろとしており、河井が慎重に狙って頭を撃ち抜いた。


 死んだオークは心臓石に変わる。これもレベルシステムの一部らしいが、レベルシステムの中で一番の不思議は、心臓石じゃないかと思っている。この仕組みを作ったモファバルは凄い。


 それからオークやマーダーウルフを相手にビームライフルの威力を試した。ほとんどの相手は一発か二発で仕留められた。


 それから大型の異獣を探し、全長五メートルほどあるソードサウルスと遭遇する。この巨体を持つ異獣は、直径一センチのビームでは倒せないだろう。


 そこでビームライフルのモードを拡散ビームにして、ソードサウルスが近付くのを待った。ドスドスという足音を響かせながら迫って来るソードサウルスに、ビームライフルの照準を合わせる。


 ソードサウルスが二十メートルまで近付いた時、俺は引き金を引いた。ビームライフルの銃口から少しずつ広がるビームが発射され、ソードサウルスの肩に命中して穴を開けた。


 その一撃でソードサウルスは倒れた。ソードサウルスの巨体が消えて残された心臓石を回収する。

「こいつはいいじゃないか。凄い威力だぞ」

 ビームライフルが予想以上の威力だったので、河井は喜んだ。


「このビームライフルを五千丁も用意すれば、日本に棲み着いた異獣を駆除できるかな?」

「特殊な異獣を除けば、できるんじゃないか」

 河井が言う特殊な異獣というのは、最近になって存在が確認された進化した異獣である。その中には異常に防御力が高い異獣も存在し、それだけはビームライフルでも仕留められそうになかった。


 アガルタ政府はビームライフルの量産に着手した。ビームライフルの数が百丁、二百丁と増えると、そのビームライフルを使って異獣を倒す人材を育て始める。


 その部隊は『異獣掃討部隊』と呼ばれることになった。アガルタ政府は異獣掃討部隊を使って、最初に北海道の異獣を全滅させるという目標を掲げた。


 俺は自宅で子供たちと遊びながら、エレナと話していた。

「なぜ北海道が一番なの?」

 エレナは腑に落ちないというように尋ねる。

「北海道が一番異獣の数が少ないので、最初に選んだようだ」


 北海道の異獣を二十年掛けて駆逐し、四国、本州、九州という順番で異獣を駆逐するという計画になっている。


「九州と本州が後になったのは、大陸が近いから?」

「そうだ。異獣が居なくなった土地があると分かったら、そこに移住したいと思う者も出て来ると考えたんだ」


 北海道の異獣駆除が終わる頃には、地球に住んでいる者は、ほぼ居なくなっているだろうと予測している。


「そのビームライフルは、ヨーロッパやアメリカの人たちにも、公開するの?」

「まさか。ヨーロッパの人々は地球への興味を失ってしまったようだから、必要ないだろう」


 エレナは不思議に思ったようだ。

「どうして?」

「生活レベルは下がったが、食料エリアだけで生きていけると分かったからだ」

 ヨーロッパは紅雷石と水力発電、それに少数の原子力発電で文明を維持できると分かると、それ以上の事は望まなくなった。それと同時に地球への関心を失ったらしい。


「ふーん、アメリカはどうなの?」

「アメリカはビームライフルなど必要としないよ。独自の武器を開発しているからね」

 元から軍需産業が発展していたアメリカでは、強力な銃やグレネードランチャーを開発し、アメリカ本土の異獣を駆除する事を始めている。


 アメリカは領土が広いので、鉱物資源などが豊富な場所の一部を高い塀で囲って、その内部の異獣を全滅させることにしたようだ。


 だが、異獣駆除を始めたところは、ほんの一部である。地球から異獣が居なくなる日は、遠い未来になりそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る