第173話 フロンティアの発展
地球で誕生した人類が、それぞれの食料エリアに分かれて新しい歴史を刻み始めた。アメリカは地球の科学文明を食料エリアへ持ち込み、その科学文明を発展させることに
アメリカの食料エリア『フロンティア』では、ネット社会が完成していた。エネルギー源は原子力発電と紅雷石発電に変わったが、地球の先進国で可能だったことは、ほぼできるようになった。
ちなみに、原発の余剰電力は水素の製造に使っており、水素がガスの代わりに家庭で使われ始めている。また、水素自動車の開発も進められていた。
「大統領、ようやく元の生活水準に戻りましたね」
シュルツ国務長官が声を掛けた。
「そうだな。だが、地球の状況は悪くなるばかりだ。資源の採掘も難しくなっている。将来はフロンティアにある資源だけで、我々は生活しなければならんだろう」
「それは……地球に戻るのを諦めたということですか?」
「科学顧問のチェンバレン博士から報告があったのだが、地球が回復するには異獣を全滅させる必要があるそうだ」
「調整官のモファバル種族は、異獣を始末してくれないのですか?」
地球を改造したモファバル種族が、始末してくれると国務長官は考えていたらしい。
「いいや、モファバル種族は、これ以上地球に手を出すつもりはないらしい」
「馬鹿な。地球をこんな状況にしたのは、あいつらなのですよ」
「君の怒りは分かるが、モファバル種族にとって、我々は猿ほどの存在なのだよ」
人間の失火で猿の群れが住んでいる山が丸焼けになった時、人間がその山を元の状態に戻すだろうかということだ。但し、野生動物を守ろうという運動をしているボランティアが、火傷を負った猿を治療するということはあるだろう。
地球人とモファバル種族との関係は、それと同じだと大統領は言っているのだ。それを聞いた国務長官は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「私たちが地球に戻るためには、地球の異獣を全滅させるだけの力を、手に入れなければならない」
「それは科学兵器ということですか?」
「そうだ。レベルシステムのスキルは、分裂の泉と守護者という存在が消えて、スキルを育て難い状況になっている。将来はスキルで異獣相手に無双するようなことは、難しくなるだろう」
アメリカはロボット兵器やパワードスーツなどの兵器開発に力を入れるようになった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
一方、アガルタの俺たちは、クゥエル支族が残した立体紋章の研究を進め、独自の立体紋章を創るためのヒントを手に入れた。
それはヒエルメントの法則と呼ばれているもので、その法則が書かれた石碑がアガルタの海から発見されたのだ。源斥力の特性とその変化の法則を書き示したもので、これを理解できれば新しい立体紋章を創れると野崎准教授も断言した。
そこで大幅に研究員を増やし、ヒエルメントの法則を研究させた。研究所としても大きな賭けだったが、俺はその賭けに勝った。
研究所はヒエルメントの法則の一部を解析することに成功した。それは源斥力を回転エネルギーに変換する立体紋章の解明だった。
それが突破口となって、立体紋章の解析が進んだ。そして、源斥力を絶縁できる物質が判明した。ゲルマニウム合金である。このことにより紋章構造体の小型化ができるようになった。
「コジロー、もうスキルに頼れなくなるというのは、本当なのか?」
突然、河井が言い出した。
「分裂の泉がなくなって、守護者が復活しなくなったからな。普通の異獣だけでレベルを上げるのは難しくなったということだろう」
「レベルの高い自分たちはいいけど、これから探索者になるという者たちはどうするんだ?」
「何十年も掛けて、レベルを上げることになる。たぶん、それが普通になるんだろう」
「だけど、そんなことで異獣を駆逐できるのか?」
「難しいだろうな。探索者は銃やグレネードランチャーで、武装するようになるかもしれないな」
異獣が初めて現れた頃、自衛隊が銃で倒したようだが、小口径の銃では中々倒せなかったようだ。そして、すぐに弾丸がなくなり、スキルに頼るようになったという。
「銃より、荷電粒子砲のような立体紋章を使った武器を、大量生産できないのか?」
「大量生産は無理かな。ただ小型化はできると思う」
「じゃあ、作ってみようぜ」
俺たちは荷電粒子銃の開発を始めた。小型化すると言ったが、今の技術では拳銃ほどに小型化するのは無理だという。そこでライフル型の荷電粒子銃を開発した。
大きな部品は二つだけ、源斥力出力装置と『荷電殲撃』の立体紋章を組み込んだビーム発生部である。源斥力出力装置は紅雷石をエネルギー源として源斥力を発生させる。そして、ビーム発生部では、源斥力をビームとして発射する。
一応荷電粒子ビームと言っているが、本当は何なのか分からない。この辺はいい加減である。研究している研究員は源斥力ビームとか言い出しているが、『源斥力をエネルギーとする正体不明のビーム』という意味である。ちなみに、ビームとは光や電子などの粒子の細い流れという定義がある。
この時点で作れる最小の源斥力出力装置とビーム発生部を作製し、テストしてみる事にした。ヤシロ市の北西に巨木が集まっている森がある。
俺と河井は森に行って、テストすることにした。高機動車で巨木の森まで行くと、装置をセットした。まだ銃の形になっていないので、台の上に源斥力出力装置とビーム発生部を固定し、導線を伸ばして木の後ろに隠れる。
河井は少し離れたところで見守り、俺は『機動装甲』で防御力を上げてから、導線の先に付いているスイッチを押した。
その瞬間、ビーム発生部の先端からオレンジ色のビームが発射された。同時にビーム発生部から衝撃波が放たれる。その衝撃波はビーム発生部を固定している台を大きく揺らす。
そのせいでオレンジ色のビームが揺れて、前方にある巨木の幹を切り裂いた。その結果、直径一メートルほどの幹が切断され、巨木が倒れ始めた。その瞬間、ヴォンという音がして導線との接続部が燃え上がる。
俺は慌てて火を消した。どうやら強烈な熱が発生したらしい。
「熱か。源斥力をビームに変換する時に、変換ロスが発生して熱として放出されたんだな」
冷却する方法を考えなきゃならないようだ。
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