第162話 ヨーロッパの国々
日本で起きた異獣の異変は、世界各国でも起きていた。アメリカやイギリスは、日本と同じように必ず守り抜くと決めた転移ドームだけを死守するという方針で戦い始めたようだ。
俺たちも必死で戦い、何とか二十箇所の転移ドームを守り抜いた。転移ドームを攻撃する異獣との戦いが終わり、俺たちは落ち着いて生活できるようになった。
その頃になると、アガルタの人々は世界に目を向ける事が少なくなった。世界から入る情報が少なくなり、興味を失ったのである。ただアメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアとは連絡を取り合っていたので、情報は入ってくる。
アメリカは元の科学文明を忠実に食料エリアで再現し、それを現状に合わせた形で発展させようとしていた。さすがアメリカと言うべきか、アメリカはそれに成功しようとしている。
ただ食料エリアは鉱物資源が少ない世界であり、鉄や銅などの一般的な金属鉱脈は存在するが、貴金属やレアメタル・レアアースというような貴重な資源はほとんどなかった。アメリカが目指す科学文明においては、それらの資源が必要なので、地球の各地にある貴金属などの鉱脈を確保し、採掘を続ける事を決めた。
一方、ヨーロッパは科学文明の保持は諦めたようだ。しかし、中世のような生活も嫌なので、最低限の生活水準を保ちながら、生きていこうと決めたらしい。
最低限の生活水準とは、以前のヨーロッパの田舎で暮らした場合の生活と同じだという。電気と上下水道があり、最小限の電気自動車や鉄道などの交通機関、農業機械などが存在する生活だという。
それだとアメリカと同じように思えるが、コンピューターやインターネットなどは不要で情報源としては本と新聞があれば十分というものだった。この生活スタイルの利点は、高度な文明の機器が必要ないので貴金属やレアメタルなどを確保する必要ないというものだ。
そんな事を自宅でエレナと話していると、河井がやって来た。
「コジロー、カンパチを持って来たぞ」
最近の河井は、武藤を手伝って漁に出ることが多くなっている。ヤシロ州の市民が魚を欲しがっているということもあるが、俺が研究所で仕事をしていることが多くなって、一人になった河井が武藤から手伝ってくれと誘われたようだ。
「ありがとう。刺し身にして、久しぶりに飲むか?」
「いいね。飲みながら研究のことを教えてくれ」
子供たちがエレナと食事をしているのを見ながら、河井と酒を飲む。
「万象発電所の建設は、順調に進んでいるのか?」
「ああ、万象発電プラントの構造は簡単だし、危険な放射線が発生する訳じゃないから、何の問題もない。ただ小型化が難しい」
「紋章構造体を小さくすれば、いいだけじゃないの?」
「小さくするのも難しいんだ。それに小さくしても膨大なエネルギーを生み出すから、それを処理する装置が必要になる」
万象エネルギーを直接電気に変換できれば、小型化も楽になるのだが、熱で水蒸気を発生させタービンを回して電気に変えるのでは、小型化は難しい。
ただ実験していて、一つ分かったことがある。日本とアガルタで同じ装置を使って万象エネルギーを取り出そうとした時、なぜか日本の方が大量の万象エネルギーを取り出せたのである。その差は八倍ほどもあり、俺としては気になった。
「そう言えば、ヨーロッパにファダラグのことを教えないのか?」
紅雷石を生み出すファダラグの飼育法を教えないと、ずっと紅雷石を売りつけることができるが、地球がどういう状況になるのか分からないという点が不安だった。
「地球の環境が変化して、ヨーロッパとの貿易ができなくなると、あっちのエネルギー状況が大変なことになる。それを考えると、ファダラグの飼育法を教えた方がいいのだが、どうも、ヨーロッパは不安定なんだ」
大きな戦いはなくなったが、何度かテロが起きている。その原因となったのが、イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペインの五ヵ国が紅雷石を独占しているというものだ。
実際は独占などしておらず、適正価格で販売してる。ただエネルギーを支配する形になったので、それが気に入らないという者がテロを起こしているらしい。
五ヵ国とその友好国は現状に満足しているが、敵対国家は不満に思っているようだ。しかし、日本まで行く手段を持っていなかったので、交渉することもできない。
「やっぱり、飼育法を教えるべきだな」
「飼育するのには、何か必要だったはずだけど?」
「硫黄・リン・マグネシウムだろ。それくらいなら、どこの国でも揃えられる」
アガルタの州知事会議で、ファダラグ飼育法をヨーロッパ諸国へ教えることに決まった。
悪い傾向なのだが、アガルタの外部への関心が薄れたのだ。ヨーロッパは自分たちの面倒を自分たちでみるように、という意見が多くなったのである。
実質上日本が滅び、新しく生まれたアガルタは開発途上の国なので、他国の面倒などみている余裕がないというのが、本音なのだ。
俺たちはファダラグとその飼育法をヨーロッパの人々にプレゼントした。それでエネルギー問題は解決すると思っていたのだが、そうはならなかった。
ファダラグの飼育法は、それほど難しいものではなかったのに、飼育に失敗する国があったのだ。そのほとんどは治安が悪く、テロを起こした国である。
その国の政府がファダラグ飼育場を建設すると、その飼育場を襲ってファダラグを奪い取るという馬鹿が現れたのである。ここまで治安が悪い国だと、何をしても成功しないだろう。アガルタはそれ以上深入りすることはなかった。
ただ五ヵ国を始めとする先進国は、飼育に成功したので十分な紅雷石がヨーロッパで生産されるようになった。日本人は感謝されたが、一部の人々からは不公平だと文句を言われる。最後まで面倒をみるべきだというのだ。
俺たちとしては『もう知らん』という感じになって、ヨーロッパの五ヵ国との連絡網だけを残して、他の国とは接触を絶った。
その頃になって、台湾の人々とアガルタの住民が接触した。台湾はフィリピン・マレーシアなどと同じ食料エリアを共有しているらしい。
日本の漁船と接触した台湾の人々は、台湾の
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