第140話 オーストラリアの食料エリア(2)
日本から来た俺たちの提案を、オーストラリア人は承諾した。それに加えて、ミネラルサンドや鉄鉱山の運営も人を集めてくれることになった。
オーストラリアの食料エリアへの移住が始まった。と言っても、クイーンズランド州に限定したものである。その他の州だと、犯罪者や中国人たちも居るのでクイーンズランド州に限定したのだ。
「日本では鉄も必要なのか? 鉄ならリサイクルすればいいんじゃないか?」
親しくなったダレルが質問した。
「回収しやすい鉄は、すでに回収してコンクリートの中や鉄橋、船などに使われている鉄を回収する段階になったんだよ」
異獣がうろうろしている中を回収して回るより、新しい鉄を作った方が簡単だと説明する。
「確かにコンクリートを叩き壊して鉄を回収するより、安く出来るかもしれない。だけど、船なら回収も簡単じゃないのか?」
「将来使うことになるかもしれないんで、船はなるべく保存しておきたい」
俺たちは船を食料エリアへ運び込んで利用することを考えていた。都市国家間の貿易で使おうと思ったのだ。
「しかし、食料エリアの自然環境は素晴らしいが、何もないところだな」
「それは仕方ないだろう。でも、探せば先住種族の痕跡が残っているかもしれないぞ」
ダレルが首を傾げた。
「それは人間ではない種族ということなのか?」
「そう、人間ではない異星人? みたいな連中かな。俺たちはここの食料エリアでも探してみようと思っているんだ」
そのために小型飛行機と高機動車を持って来ていた。驚いたことに、小型飛行機の操縦を覚えたのは、河井だった。河井は武藤の探索者仲間である黒井から操縦を習ったらしい。
俺たちがオーストラリアへ来て、一ヶ月ほどが経過している。移住が始まって半月ほどだ。
「ところで、食料エリアに発電所を建設したいのだが、大丈夫かな?」
ダレルたちも電力が必要なのは分かる。だが、食料エリアの空気浄化能力みたいなものの限界が分からないので、アガルタではなるべく環境を汚さないようにしている。
そのことをダレルに話した。
「そうすると、石炭火力発電所はダメだろうか?」
「日本が開発した最新型の石炭火力発電所を設置しましょうか。あれなら硫黄酸化物や窒素酸化物、煤塵を最小限にできると聞いている」
石炭などの資源で代価を払うことになるが、資源が多いオーストラリアなら、難しいことではないだろう。
俺は紅雷石発電についても考えたが、あまり秘密を広げることは危険だと判断する。特にオーストラリアという土地には、多くの犯罪者が残っているからだ。
そういう犯罪者たちは、シドニーやキャンベラなどの都市部に集まっているらしい。中にはガーディアンキラーも居て、食料エリアから食料を持って来ることで、大勢の手下を支配しているという。
話題がシドニーやキャンベルの話に移り、無法者たちの対応をどうするか話し合う。
「そんな連中に気付かれた時に、どうやって食料エリアの町を守るかだな」
ダレルが深刻な顔になる。
「日本では、ガーディアンキラーを増やすということをしている。ここでも探索者たちに協力してもらって、増やしたらいい」
オーストラリアの探索者たちは、ほとんどがアメリカへ行ってしまったので、探索者の数が少ないらしい。
ダレルと話した翌日、俺と河井は小型飛行機を使って空から探索することにした。持ってきた小型飛行機は、水上機だった。しかも水陸両用機であり、車輪を出し入れすることで陸でも水上からでも離陸できた。
近くにある湖から離水した水上機が、食料エリアの上空に浮かんだ。
「ここの食料エリアは、森が多いな」
俺が言うと、河井が頷く。
「先住民がいたのかな。全然開発されたようには見えないけど」
クゥエル支族は町の防壁や塔などを残したが、全体から見れば僅かなものであり、ここの先住民も多くのものを破壊し、更地に戻したのかもしれない。
一時間ほど飛ぶと大きな湖に出た。琵琶湖に匹敵するほど大きな湖である。その上を飛んでいる時、楕円形の島を発見する。
明らかに人工的な島だ。水際が綺麗な楕円形を描いており、その中心には五稜郭のような星型の建物があった。
「あそこに降りよう」
俺が島を指差すと、河井が降下する。無事に着水すると、岸に近づける。飛行機から降りた後、亜空間に水上機を仕舞い星形の城の方へ向かう。
「あれは先住民の遺跡らしいけど、綺麗な形で残っているな」
「それほど古いものじゃないかもしれないぜ」
「そうだな。入り口を探そう」
入り口は時計回りにぐるっと回った場所にあり、俺たちは扉を押した。押した掌がチクリと痛んだが、扉は開く。
掌を見ると、小さな穴が開いて血が少し出ている。棘か何かが刺さったような感じだ。痛みもなくなったので、気にせずに中に入る。
中は何かの工場だったようだ。と言っても、中は空っぽで何もない。なぜ工場だと分かったかと言うと、壁に書かれている絵である。
壁には先住民が工場で働いている姿が描かれていたのだ。その絵から乗り物のようなものを製造していたのが判明する。乗り物と言っても、車輪がないので船のようなものかもしれない。
この建物は三階建てのようだ。一階には絵しかなかったので、階段を見つけて二階へ上る。すると、部屋の中央に一階で造っていた乗り物が置かれていた。
「コジロー、これは」
「ああ、一階で造られていたものだよな。船なのか?」
外見は小型船のように見えるが、小さな翼のようなものもある。座席のようなものがあったので、俺たちは座ってみた。
俺が一番前の座席に座ったのだが、目の前に水晶玉のようなものが置いてある。それに右手を乗せた。その瞬間、頭に操縦法の知識が流れ込んできた。
これは知的生命体が持つ意志力を力に変えて、推進力とする乗り物らしい。この種族は思考や意志力をエネルギー源として活用する文明を築き上げたようだ。
本当に意志力なんかで動くものなのだろうか? 俺は疑問に思いながら教えられたやり方で意志力を水晶玉に向ける。小型船のような乗り物がグラッと揺れる。
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