第135話 ローランドたちの帰国
俺たちの要求を聞いたローランドは何か考えているようだったが、結論を出した。
「答えを出すには、大統領の承認が必要になるのですが、私としては、その条件を前向きに検討したいと思う」
どこかの政治家のような言葉を聞いた俺は、笑い出しそうになったが堪えた。
「分かりました。結論を待つ事にします」
ローランドが言い難そうな顔をしてから、紅雷石と紅雷石発電装置を見せて欲しいという。
俺は当然の事だと思った。大島にある旅館を改造した建物で会談していたのだが、俺は外に誘った。
「外に何かあるのかね?」
「違います。これを見せようと思ったんです」
俺は亜空間から高機動車を取り出した。それを見たローランドは首を傾げる。俺はボンネットを開けて、エンジンルームを見せる。
「もしかして、このエンジンルームの中に、紅雷石発電装置が有るのかね?」
ローランドは紅雷石発電装置を大きな装置だと考えていたようだ。俺は小型紅雷石発電装置を指差した。
「これが紅雷石発電装置です。こいつは小型なので発電量は少ないですが、アガルタには大型紅雷石発電装置もあります」
「危険なものでなければ、紅雷石を見せてくれないか?」
ローランドは放射線の心配をしたようだ。俺は紅雷石を取り出して見せた。
「手に取って見てもいいかな?」
「いいでしょう」
紅雷石を手に取ったローランドは、じっくりと観察した。地球では見た事がない鉱物だと分かったはずだ。
「これの成分は分かっているのかね?」
源斥力というエネルギーを結晶化したものだと分かっているが、今の段階で情報を与えるべきではないと考えた。
「いえ、研究中です。日本に住んでいた時のように、先端設備が使える訳ではないので苦労しています」
ローランドが頷いた。
「そうだろうね。向こうの食料エリアでもそうなのだよ」
アメリカ人たちが移住した食料エリアでも、そこで発見された様々なものを調べようとしたが、エネルギー不足や研究設備がないために苦労している。
「何もなしで大統領を説得できないでしょうから、紅雷石を三個だけ渡します」
ローランドが高機動車のエンジンルームにチラッと目を向けた。それを見て紅雷石発電装置も持ち帰りたいのだと分かった。だが、当然ながら持ち帰らせる事はできない。
俺は紅雷石発電装置をどのように使っているか説明した。
「ほう、あの小型飛行機も紅雷石発電装置で飛んでいたのか。素晴らしいエネルギー源ですな。問題は埋蔵量ですな。どれほどの埋蔵量があるか教えてもらえますか?」
「それが分からないんですよ。新しい鉱物なので、調査の方法を研究している段階なのです」
この問題は技術者に確かめている。紅雷石が埋まっている範囲は分かるのだが、鉱脈の厚さなどが分からないと言っていた。
その説明にローランドは納得した。その後、大統領が合意した場合の様々なプランを話し合い決める。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
大島を離れたローランドたちはアメリカに戻り始めた。甲板の上でローランドが日本の方を見ていると秘書のアシュリーが声を掛ける。
「紅雷石というのは、本物でしょうか?」
「あのコジローという探索者が、嘘を言っているようには見えなかった」
「問題は、埋蔵量ですね」
「日本側は、将来に自信を持っているようだ。かなりの埋蔵量があると思っているのだろう」
「軍部はどう思うでしょう?」
「ふん、今の軍部に何ができる。空母や強襲揚陸艦も動かせず、沖縄の基地からも撤退したんだぞ」
近代兵器はメンテナンスに必要な部品が調達できずに、最小限の人間だけ残して放置されている。
「ですが、強力な探索者を育成しています」
「その探索者は、心臓石を手に入れるために全国に散らばって活動している。我々は大量の心臓石が必要なのだ」
ローランドのクルーザーはアメリカ大陸を目指して進み、二週間ほどでアメリカの西海岸に到着した。西海岸からルイジアナ州のニューオーリンズへ装甲バスで走る事になる。
苦行のような旅を終えたローランドたちは、ニューオーリンズの転移ドームから食料エリアへ転移してニューホワイトハウスへ向かう。
新しいホワイトハウスは、強力な異獣が少ない地方にある転移ドームから転移できる場所が選ばれた。首都であったワシントンDCが、異獣により壊滅的被害を受けた事実を重く受け止め選定したのだ。
国務長官のヘンリー・シュルツに会うためにニューホワイトハウスに入った。アポイントは取っているので、指定された会議室で待つ。
ドアが開きシュルツ長官が入ってくると、ローランドは立ち上がり帰還の報告をする。
「ご苦労だった。中国はどうだった?」
シュルツ長官は一番
「中国は、一部のエリートだけが食料エリアへ移住したようです。一般人民は中国大陸の各地で生き残ろうと必死に
「その情報は、人類の将来に暗い影を落とすものだが、正直ホッとしたよ」
「ですが、一つ問題があります」
「何かね?」
「放置されている原子力発電所や核爆弾です」
それを聞いたシュルツ長官は、顔をしかめた。
「中国の連中は、適切な処理をしていないのかね?」
「燃料棒を取り出して、処理したとは思うのですが、原子力発電所は無人となっていました」
「無人にして良い施設ではないのだが……韓国はどうだ?」
アメリカは日本と連絡を取っていたが、韓国とは音信不通になっていた。シュルツ長官は同盟国がどうなったのか知りたかったのだ。
「韓国は、中世に戻ったかのような状況になっています。強い力を持つ探索者が貴族のように振る舞い、それぞれが王国を築いていました」
「はあっ、日本はどうだ?」
「日本は、我々より上手くやっていると思われます」
「な、何だと! それは本当なのかね?」
「はい、エネルギー問題も独自の解決法を発見したようなのです」
シュルツ長官が思わず立ち上がった。
「なぜ、それを先に言わんのだ」
ローランドが渋い顔になる。先に質問を始めたのは、シュルツ長官だったからだ。ローランドは紅雷石をテーブルの上に並べ、説明する。
「至急、大統領に報告せねばならない。君も付いて来てくれ」
シュルツ長官が部屋を出て、大統領執務室へ向かったので、ローランドは慌てて追い掛ける。
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