第134話 日本とアメリカ
ローランドたちはもう一度大島へ行き、話し合う事になった。武藤はヤシロに戻ってコジローに事情を説明する。
「武藤さん、面倒な事を俺に丸投げですか?」
「すまん、アメリカさんがなかなか鋭いので、おれでは対応できなかったんだ」
こういう対応に慣れていない武藤では、仕方ないのかもしれない。と言っても、俺が得意だという訳ではなく、武藤よりはマシという程度である。
俺はアメリカへの対応について美咲や竜崎と話し合う。
「ローランドさんは、漁船が石炭を燃料にしていないと気づいて、追及してきたのね?」
「その通りだ」
俺は肯定して頷いた。美咲は溜息を吐き、竜崎に視線を向ける。
「竜崎さんは、どうしたらいいと思う?」
「そうだな。石炭以外のエネルギーがあることは、確信しているだろうから、紅雷石発電装置のことを話したらどうだ?」
美咲が渋い顔をする。
「そんな情報を知ったアメリカが、どういう対応を取るかが、心配なのよ」
「まさか、攻めてくると思っているのか?」
「その可能性がないと言える?」
「それは断言できないが、アメリカだって日本を攻めれば、犠牲者が出ることは理解しているはずだ。紅雷石の産出量を少なく言えば、大丈夫じゃないのか?」
紅雷石の産出量は少ないと伝えれば、奪い取るほどの魅力を感じないのではないかと言いたいようだ。だが、アメリカがその言葉を信じるかどうかは分からない。
占領した後、確認するまで信じないというアメリカ人もいるかもしれない。
「このまま白を切ったら、どうなると思う?」
俺が美咲に質問した。
「そうね。ガーディアンキラーをアガルタに侵入させて、一般人から情報を集めるかな」
「なんだ、結局バレるんじゃないか」
紅雷石については、一般人にも情報が広まっているので秘密にするのは難しいという話になった。
「そうなると、紅雷石については、アメリカに教えるということね」
美咲が結論を言うと、俺は渋い顔になる。どっちにしても知られるのなら、恩を売りながらこちらから教える方が良いだろうということになった。その時に要求するものも決める。
「ファダラグについても教えるのか?」
紅雷石を生み出すファダラグ飼育場も、各地に建設したので一般人たちは知っている。
「そうね。ファダラグについても教えないと、紅雷石鉱山を欲しがるかもしれない」
クゥエル支族の立体紋章については、一般に広まっている知識ではないので、秘密にすることにした。
「コジローは、アメリカに紅雷石の件を教えるのが嫌なの?」
美咲に尋ねられた俺は、冷静に考えた。
「そうじゃない。こういう時代だから、人類が生き残るために協力しなきゃならないというのも理解している。だけど、アメリカがどういう状況になっているのかも知らずに、情報だけ渡すのも不安なんだ」
それを聞いた美咲と竜崎は納得して頷いた。
「なら、ローランドさんから、正確なアメリカの状況を聞き出そうじゃないか?」
竜崎は『尋問術』というスキルを取得している。そのスキルにより、相手が嘘を吐いているかどうかが分かるらしい。
俺と竜崎が大島に行って、ローランドたちと話をすることになった。小型飛行機と高機動車、船と乗り継いで大島に戻った。
大島で待っていると、ローランドたちのクルーザーが姿を現した。そのクルーザーからローランドたちが降りてくる。
「ローランドさん、中国に行ったそうですね。向こうはどうでした?」
秘書のアシュリーが通訳してくれたので、会話に支障はない。
「かなり混乱していたよ。やはり問題はエネルギーだった」
「そうですか。どこもエネルギーで苦労しているんですね」
ローランドが肩を竦める。
「日本の漁師から、漁船で使っている動力について聞いたのだが、何か特別なものなのだろう?」
ローランドが探るように尋ねる。
「その質問に答える前に、アメリカの様子を聞かせて欲しいのです」
「我が国の食料エリアということかね?」
「まあ、そうです」
「いいだろう。我々は早い段階で、制限解除水晶のことを知った。なので、食料エリアへの移住には、十分な準備をする時間があった」
アメリカは探索者を育てるために支援プログラムを立ち上げ、強い探索者を育てた。そして、数多くの制限解除水晶を手に入れたのだ。
その制限解除水晶を使って、アメリカは食料エリアへの移住計画を進めた。その御蔭で六千万人ほどの人々が食料エリアへ移住できたという。
だが、問題が起きた。食料エリアには石炭も石油もなく、現代文明に必要な電気を作り出すことができなかったのだ。
「食料エリアで穀物を育て、それをアルコールに変えてエネルギーにすることも考えましたが、食料エリアが有限だということが分かり、その計画は中止されました」
エネルギーよりも食料を選んだのだ。だが、アメリカはエネルギーが必要だった。そこで文明を維持するためのエネルギーを求めて、ローランドたちを世界に旅出させたらしい。
俺はローランドに視線を向けて尋ねる。
「もし、アガルタで石油が発見されたとしたら、どうしますか?」
ローランドが興奮した様子で身を乗り出す。
「ほ、本当に石油を発見したのかね?」
「落ち着いてください。仮の話です。……そうだとした場合、アメリカはアガルタを奪い取ろうとするのではありませんか?」
ローランドが深呼吸して心を落ち着かせてから、首を振って否定する。
「確かに、そう言い出す者も居るだろうが、無理だろう?」
俺は竜崎にチラリと目を向ける。竜崎が微かに頷く。嘘を言っていないという合図だ。
「無理だというのは、なぜです?」
「国民は食料エリアの生活に順応し始めているのだ。今更、別な場所に移住しようと言っても、承知しないだろう。石油が有るのなら、少量だけ購入して限られた目的のために使うことになる」
「アメリカはどうなるのです?」
ローランドの顔が曇る。
「我々は文明が衰退する時代を、生きることになる」
それから詳しいアメリカの状況を聞いた。
「日本は本当に石油を発見したのかね?」
この様子なら、これ以上調査しないかもしれないと思ったが、アメリカ人の中には、強硬派も居るだろう。アガルタを調べようと言い出す者は必ず出て来ると判断し、紅雷石の説明を始めた。
「いえ、我々も石油は発見できませんでした。しかし、別のエネルギー源を発見したのです」
ローランドが首を傾げる。俺は紅雷石と紅雷石発電装置について伝えた。
「素晴らしい。それが本当だとすると、文明が衰退するのを防げる」
笑顔になったローランドだが、すぐに真剣な顔になった。
「我々に紅雷石と紅雷石発電装置の知識を教える代償として、日本は何を要求するのかね?」
「地球に有る資源の共有です。文明を維持するためには、様々な資源が必要です。アガルタでは手に入れられないものも多い。それらの資源を共有することを要求します」
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