第133話 中国の現状

 ローランドたちは韓国から黄海へ入り北上して天津市へ向かう。天津市へ行けば、北京も近いので何か分かるだろうと考えたのだ。


 天津港にクルーザーを停泊させ上陸すると、強い異獣が待ち構えていた。こういう異獣がいるのは、近くに大勢の人間が暮らしている場合が多い。


 ローランドは部下の探索者たちに異獣を始末させた。そして、ここで暮らす中国人を探させると、探索者の一人が町を発見する。


 その中国人たちは食料エリアに移住したエリートたちを恨みながら生きていた。だが、絶望していた訳ではない。このままガーディアンキラーが食料エリアから食料を調達してくれれば、生き残れると思っていたのだ。


 ただ出生率が極めて低くなっている事に気づいていない。これは空気中に存在する毒が関連していた。毒の作用で妊娠し難くなっていたのだ。


 いずれ地球に残った人々は死に絶える事になる。その事をアメリカは知っている。たぶん日本も知っているだろうとローランドは考えた。


 ローランドは食料エリアに探索者を転移させて、食料エリアの中国人たちと接触した。その中で文永ぶんえいという町長のような立場の人物と交渉して、天津港で会う約束を取り付けた。


 その情報の代償は大量の心臓石である。ここでも『心臓石加工術』が使われており、心臓石から様々なものが作られているようだ。


 天津港の近くにある転移ドームに現れた佳文永とローランドは、話し始めた。佳文永はガーディアンキラーであり、ここの転移ドームを使って、食料エリアと中国を行き来しているそうだ。


 中国がエリートだけを食料エリアへ移住させたというのは本当の事だった。公式な理由はエネルギー不足だと言われている。食料はあったが、水力発電や風力発電などで作り出せる電力では、生き残った全国民を移住させる訳にはいかないというのだ。


 佳文永は英語が話せたので、ローランドは英語で質問した。

「エネルギー問題は、後で解決する事もできる。移住する人間を増やしても良かったんじゃないか?」


「中央の連中の本音は、膨大な人口が負担になりそうだと考えたんだ」

 食料エリアの広さが無限でないと気づいたようだ。資源が限られているので、大量の人民を移住させたくないのだろう。


 移住してきた人々は、元の家で使っていた電気製品を全て食料エリアに持ち込んだらしい。電波がほとんど使えないのにテレビやスマホを持ち込み、冷蔵庫や洗濯機も持ち込んだ。


 だが、それらの電気製品はほとんど使えなかった。ほとんどの家庭に電気が供給されなかったからだ。水力発電や風力発電で作られた電気は、優先的に工場で使われたのである。


「工場だと……どんな工場だね?」

「紡績や織物工場、製薬工場、食品加工工場などの生活に必要なものを作り出す工場と武器工場だよ」


 その状況はアメリカと同じだとローランドは思った。アメリカ人たちが移住した食料エリアでもエネルギー不足で便利な電気製品は使えなくなっていた。


 人々は数百年昔に戻ったような生活を送っている。

 ローランドは日本人たちの事を思い出す。彼らはエネルギー問題で困っているようには見えなかった。水力発電で電力を賄っていると言っていたが、それには数多くのダムを造る大変な土木工事が必要だったはずだ。


 アメリカでも無理だった事が、日本の食料エリアで可能だったとは思えない。

「ローランドさん、中国の調査を続けますか?」

 秘書のアシュリーが確認した。


「最後に先住民の事を確認したら、終わりにしよう」

 佳文永に食料エリアの先住民について質問すると、遺跡などは残っているが、建物だけで中身がないものだったという答えである。


 ローランドは中国の調査を打ち切って、日本に戻ろうと決断した。

「ヤバイ、武装警察だ」

 佳文永が悲鳴のような声を上げて逃げ出した。残されたローランドたちを武装警察が襲った。アメリカの探索者たちが抵抗し、クルーザーに逃げ戻る。数人の負傷者が出た。


 天津港を離れたクルーザーが黄海を抜けると、ローランドたちは初めてホッとした。

「武装警察か、いきなり撃ってくるとは、とんでもない連中だ」

 ローランドが怒りを含んだ声で非難する。


「昔から情報の漏洩を嫌っていましたからね。その一方で汚い手を使ってでも、貪欲に情報を集めていました」


「食料エリアでも、ああいう状態だと混乱が起きるかもしれんな」

「混乱というと?」

「内紛だよ。革命と言っても良いかもしれない」


 アシュリーが嫌そうな顔をする。

「当分、中国とは関わらない方がいいかもしれません」

「そうだな、中国より日本と協力して、食料エリアの開発を進めるというのがいいかもしれんな」


 クルーザーは日本海に入り、北上した。そして、日本の漁船と遭遇する。

「おかしいな。あの漁船は煙を出していない」

 ローランドが首を傾げた。アメリカの漁船は、軽油やガソリンが使えなくなったので石炭を燃料とする漁船に変わっている。


 そのせいで煙突から煙を吐き出しているのが普通なのだ。ローランドは漁船の横にクルーザーを並べさせた。すると、漁師らしい男が抗議する。


「こっちは漁をしているんだぞ。邪魔だから別のところへ行ってくれ」

 抗議したのは探索者の武藤だった。

「済まない。ちょっと質問したいんだが、いいですか?」


 アシュリーが日本語で尋ねた。美咲たちと行動していた時には、喋れると一言も言っていなかった。

「あんたらアメリカから来た人たちだろ。コジローから聞いたよ」


 ローランドはニヤッと笑う。アシュリーに通訳してもらって質問した。

「ほう、コジローさんの友人でしたか。あなたたちの漁船は煙を出していませんね。何を燃料にしているんですか?」


 武藤は顔をしかめた。漁船は紅雷石発電装置で作られる電気を使って推進していたからだ。

「こいつは電気で動いている。モーターでスクリュープロペラを回しているんだ」


 ローランドが感心したように頷いた。

「それは素晴らしい。見せてもらえませんか?」

 武藤は困ったという顔をする。


「すまんが、新開発したものなので、おれの一存では見せられねえよ。コジローに確認してくれ」


 それを聞いたローランドは意外に思った。コジローの名前が出て来るとは思っていなかったからだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る