第132話 ローランドと巨大船
ローランドはガーディアンキラーではないそうだ。俺と美咲は話し合って、以前から用意していた転移ドームからアガルタへ転移することにした。
それは浜名湖に近い場所にある転移ドームで、そこは毒虫区に取り囲まれていた。俺たちは毒虫に対する護符を持っているので安全に近づけるが、それ以外の者たちは苦労するだろう。
大島から浜名湖近くの港へ移動し、そこから目的の転移ドームを目指す。ローランドは秘書らしい男を同行させた。
「ここはどの辺なのかね?」
ローランドの質問に、美咲が、
「うなぎで有名な浜名湖の近くです」
「ほう、東京でうなぎを食べた事がある。あれは美味しかった。だが、もう食べられないのだろうね」
俺は溜息を吐いてから頷く。浜名湖周辺からも人が消え、浜松なども廃墟になっていた。そんな状態なのでうなぎの養殖などは壊滅である。
「お二人は、この護符を首に掛けてください」
美咲が言うとローランドが首を傾げる。
「何の護符なのだね?」
「毒虫です。ここから先は毒虫のテリトリーになっていますので、この護符がないと死にます」
「ほう、日本も考えたものだ。こういう場所にある転移ドームなら、制限を解除しても安全が保てると判断したのだな」
俺たちは用心しながら転移ドームへ進み、毒虫のエリアを抜けて転移ドームに入ると、制限解除水晶をセットした。
俺が最初にアガルタに転移して、ローランドたちを待つ。最初にローランドの秘書であるアシュリーが転移してきた。その次にローランドが来て、最後に美咲が現れる。
ローランドが周りを見回す。ストーンサークルの周りは監視所以外は何もないところだった。
「ここから歩いていける場所なのかね?」
美咲が笑う。
「まさか、ここからは車で移動します」
俺は亜空間から高機動車を出した。それを見たローランドは驚いたような顔をする。
「それは『操闇術』じゃないな」
「ええ、『亜空間』というスキルです。アメリカ人の中にも所有している者がいるのではないですか?」
ローランドが頷いた。
「確かにアメリカにも存在するが、極めて少数だったはずだ」
たぶん一人か二人しかいないのだろう。
その後、高機動車に乗った俺たちは、舗装道路がある場所まで行った。
「こんなところに舗装道路があるということは、町が近くにあるのかな」
ローランドの言葉を聞いて、美咲が苦笑いする。アメリカが味方かどうか判明するまでは、あまり情報を与えたくないのだが、友好的な態度を取らなければ敵に回ってしまうかもしれない。難しいところだ。
俺たちは高機動車から降りて、小型飛行機で目的地に向かうことにした。俺が亜空間に入れて持ってきた小型飛行機は、都市国家ヤシロが所有する飛行機である。
行政長官の美咲が急用で移動するかもしれないので、借りてきたものだ。
「今度は飛行機で移動するのか。誰が操縦するのだね?」
ローランドが美咲に尋ねた。
「私が操縦します。自衛官だった時に免許を取りました」
「ほう、あなたは自衛官だったのですか」
話をしながら飛行機に乗り込んだ俺たちは、巨大船が置かれている場所に向かって飛んだ。ローランドは飛行機の中から、巨大船を見た瞬間に目を輝かせ始める。
「凄い、こんな山の中に巨大船が残されているなんて……」
小型飛行機が巨大船の近くに造られた滑走路に着陸する。飛行機から下りたローランドは、巨大船に向かって歩き始めた。
美咲とアシュリーがローランドを追い掛け、俺は小型飛行機を亜空間に収納してから歩き始める。ローランドは相当興奮しているようだ。中身は空っぽなのに。
「ローランドさん、そんなに急がないでください。その巨大船も中身は空っぽなんですよ」
それを聞いたローランドが立ち止まった。
「そんな……これだけ巨大な船なのに、中身がないのですか?」
「ええ、船体だけが残っているんです」
美咲が答えると、ローランドは肩を落とす。その後、俺たちは巨大船を案内した。
「本当に空っぽなのですな。日本人が内部の装置を外したということは、ないのでしょうね?」
「それはありません。我々も中身があったら、嬉しかったのですが、アメリカが食料エリアで発見した遺跡もそうだったのではありませんか?」
ローランドが渋い顔で肯定した。
「残念ながら、トゥリー人は何も残してくれなかったよ」
本当だろうか? 何もないという事は考えられないように思う。アメリカという国は徹底的に調査し研究する国だ。中身がない遺跡からでも、何らかの情報を取り出す国だと思う。
「この巨大船、我々の研究者にも調査させてもらえませんか?」
「アメリカには、そんな余裕が有るのですか?」
ローランドが肩を竦めた。
「そうでした。我々には余裕がありません。エネルギー問題さえ解決できれば、何とかできるのですが、ここの食料エリアに石油などはありませんか?」
美咲が首を振る。
「石油や石炭は発見していません。それに有ったとしても、そちらに運ぶ方法がありませんよ」
「いえ、存在すると分かれば、我々も本格的に石油や石炭を探すという事です」
満足するまで巨大船を見て回ったローランドは、仲間のところに戻ることにしたようだ。また小型飛行機と高機動車を乗り継いで日本に戻り、仲間の待つクルーザーに乗った。
彼らは韓国や中国を訪れる予定らしい。アメリカもお節介だ。俺たちはローランドたちのクルーザーが、韓国へ行くのを見送った。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「アシュリー、日本人たちの様子をどう思う?」
「何か余裕があるように感じました。日本人が言っていた水力発電が余裕の源なのでしょうか?」
「そうかもしれない。だが、あの高機動車や小型飛行機も不思議な感じがした」
「あれは電動だからでしょう。日本人は効率のいいバッテリーを開発したのかもしれません」
「水力発電か、羨ましい。次の韓国はどうなんだろう」
ローランドたちは韓国を調べて絶望した。民主主義の国だったはずの韓国が崩壊し、強い探索者が君臨する封建社会になっていたからだ。
韓国は制限解除水晶の存在を知らなかった。なので、食料エリアへ転移できるのは、ガーディアンキラーだけであり、ガーディアンキラーが絶大な権力を持つようになっていたのだ。
ローランドたちは韓国の調査を打ち切って、中国へ行くことにした。
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