第129話 御手洗市長のお宝
次の宝石店へ行く前に床に散らばる銀貨を拾い始めた。有名なカナダの銀貨やオーストリアの銀貨がほとんどだったが、中には日本の記念銀貨もあった。
全部を拾い集めた後、俺たちは次の宝石店へ向かう。現在獣王区になっている場所の西側に、その宝石店がある。途中、バーサクベアと遭遇して戦いとなったが、あっさり勝利して先に進む。
その宝石店は火事で燃えたらしく壁のあちこちが黒くなっている。建物の天井が抜け、コンクリートの瓦礫が床に散らばっていた。俺たちは気を付けながら中に入り金庫を探す。
「これは酷いな。階段が瓦礫に埋まって二階に上がれなくなっている」
「これは……コジローの出番だな」
「えっ、俺にどうしろと言うんだ?」
「瓦礫を『亜空間』のスキルで収納して、外に捨てればいい」
河井が冴えている。天変地異が起きなければ良いのだが、俺は神に祈った。
「何で、こっちを見てから拝むんだよ。変なことを考えているな」
「いや、何でもない。それより瓦礫を取り除くぞ」
俺は瓦礫を収納してから外に放り出した。階段は壊れているが登れないというほどではなく、俺たちは二階に上がる。天井がなくなっており、瓦礫が散らばっている。部屋の隅に瓦礫の山が出来ていた。
「金庫がない。一階になかったから、二階だと思ったんだけどな」
俺の視線が瓦礫の山に向けられた。
「もしかして、この瓦礫の下にあるのか」
「またまたコジローの出番じゃないか」
河井の言葉に、俺は溜息を吐いてから瓦礫を片付けた。
瓦礫の下に金庫があった。俺は翔刃槍に神気を流し込んで三日月型の刃を飛ばして金庫を真っ二つにする。金庫が左右に分かれて倒れ、中にあった宝石や貴金属が床に投げ出された。
俺たちは宝石や貴金属を拾い集めたが、残念ながらプラチナは少なく全部で七百グラムほどしかないだろう。これでは少なすぎる。俺はガッカリして溜息を漏らす。
「御手洗市長の自宅に行くしかないな。あの市長は絶対溜め込んでいたはずなんだ」
「でも、溜め込んでいるのは、金や銀だけかもしれないぞ」
「いや、金は石炭の代金として政府が集めていたから、それほど溜め込めなかったはずだ」
金の代わりにプラチナを御手洗市長が溜め込んでいたのではないかと俺は思っている。金がなくなれば、プラチナに価値が出ると考えたのだろう。
俺たちは御手洗市長の自宅に向かった。東下町の南側にある用水池の
この東下町も人が住まなくなったせいで傷み始めていた。御手洗市長の自宅に入ると各部屋を探して回ったが、何も見つからない。
御手洗市長が死んだ時に竜崎たちが探したはずなので、簡単に見つかるところにはないのだろう。
「ミチハルなら、お宝をどこに隠す?」
俺が尋ねると、河井が庭を見て考えた。日本庭園様式の庭だったようだが、今は雑草が生い茂る荒れた庭になっている。河井は庭に出て建物を観察した。
建物の一部に増設された部分がある。
「あの増設した部分は、煙突か?」
増設した部分の上部にある煙突を見て、すぐに暖炉を増設したのだと分かった。
「暖炉だろ。しかし、あの煙突は大きすぎないか?」
御手洗市長のことだから豪華な暖炉を作るように注文を付けたということは考えられるが、異獣が現れた直後の頃だということに違和感がある。
俺たちは暖炉を調べることにした。リビングに入って暖炉を調べると、あまり使われた形跡がないことが分かった。どういうことだ?
「炉床を調べよう」
灰が溜まっている炉床を棒で掻き回してみたが、おかしな点はないようだ。
「コジロー、どいてくれ」
河井の声で暖炉の前から離れると、河井が【爆炎撃】を暖炉に放った。
「うわっ!」
俺は跳び退いて部屋の隅まで退避する。その直後、【爆炎撃】が暖炉に命中して爆発。ただ爆発は小さかった。河井が手加減したのだろう。
「何するんだ?」
「そんな調べ方じゃ、日が暮れてしまうだろう。見ろよ」
【爆炎撃】によって暖炉が破壊され、その炉床の下に階段が顔を出している。河井の方を見ると得意げな顔をしていた。
俺たちは階段を下りて、秘密の地下室を調べた。そこには三億円ほどの一万円札の束と金や銀、プラチナのインゴットが積まれていた。
「プラチナは、五キロほどか。十分じゃないが、当座は何とかなるな」
河井は金のインゴットの枚数を数えていた。
「金が三キロほどだ。当座の小遣いにはなるぞ」
小遣いとか言っているが、半分ずつ分けたとしても普通の人の十数年分の年収になるだろう。
地下室の貴金属を収納して、戻ろうとすると河井が呼び止める。
「お札は放っておくのか?」
「価値がないんだ。そのままでいいだろう」
河井が溜息を漏らす。
「そうだな。だけど、ちょっと昔のことを思い出したよ」
俺たちは耶蘇市からヤシロに戻り、プラチナ二キロを野崎准教授に届けた。
「凄いな、どこから回収したんだ?」
「御手洗市長の自宅ですよ。あそこに隠してありました」
それを聞いた野崎准教授は、顔を歪めて御手洗市長を非難した。
一個の紋章構造体を作製するのに、およそ三百グラムが必要なので、『源斥波発信』と『源斥波受信』の紋章構造体を三個ずつ作成してもらうことにする。
俺たちは『源斥波発信』と『源斥波受信』を使って通信機が作れないか、試すことになったのだ。ちなみに紋章構造体に流すエネルギー源はどうするかという問題は、野崎准教授が解決してくれた。
紅雷石発電装置を改造することで、源斥力に変換することができるようになるかもしれないと分かったのである。これから改造して実験で確かめるという段階だが、それが上手くいけば電波に代わる通信手段を俺たちは手に入れたことになる。
「でも、一つの紋章構造体を作るのに、プラチナが三百グラムも必要だというのは、問題じゃないか?」
河井が鋭い指摘をする。
「紋章構造体は、専用の機械を作れば小型化できるらしい。それに全アガルタの探索者にプラチナを集めるように指示すれば、大量のプラチナが集められると思う」
俺たちは立体紋章の研究に資金と人材を投入し、クゥエル支族の文明を学び始めた。
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