第130話 立体紋章の研究

 立体紋章の研究は進み、かなり小さな紋章構造体も作れる見通しが立った。そして、紅雷石発電装置を改造して源斥力を出力するという研究が進み、源斥力出力装置が完成した。


 俺たちは新しく設立した立体紋章研究所で研究を進めていた。

「よし、源斥力出力装置と『源斥波発信』『源斥波受信』の紋章構造体を繋いでテストするぞ」

 俺が声を上げると、研究所の皆から『おう』と返事が返ってきた。


 源斥力出力装置に紅雷石を入れてスイッチを入れる。すると、紅雷石が源斥力に変換されプラチナ製の導線を流れ紋章構造体に流れ込む。


 『源斥波発信』の紋章構造体から源斥波が発せられ、それを『源斥波受信』の紋章構造体が受信して源斥力に変換され放出される。その源斥力は電気に変換され計測された。


「やった。成功したぞ」

 電気の計測を担当していた研究員が叫び声を上げる。我々は日本人で初めて源斥波の送受信を成功させたことになる。


 これがどれほど画期的かと言うと、マルコーニが無線電信を成功させたことに匹敵するほどの偉業だった。俺たちは今の実験成果を基にスマホのような小型通信機を開発しようと考えていた。


 但し、紋章構造体を内蔵することになるので、スマホほど薄くはならないだろう。俺たちが通信機の開発に力を入れているのは、アガルタではスマホや無線機が全く使えず、遠く離れた地方との通信が困難になっていたからだ。


 一応通信機の開発目処が立った後は、『初級知識(立体紋章)』や『中級知識(立体紋章)』から手に入れた様々な立体紋章の紋章構造体を作り研究を続ける。


 立体紋章を使った通信機が、アガルタで使われるようになると、民間でも立体紋章を研究する者が増えた。源斥力出力装置も小型化され、ショルダーバッグに入るほど小さくなる。


 民間で研究され始めたのは、源斥力を流すとアルミニウムに対して強力な斥力を発揮する立体紋章である。これを使ってピストンエンジンが作れるのではないかと考えているらしい。


 俺は紅雷石発電装置で紅雷石を電気に変換してモーターを回すことの方が簡単だと思うのだが、研究者に聞くと燃費が悪いようだ。


 紅雷石を電気に変換する時に、熱と源斥力になって放出されるロスが多いらしい。それを考えると源斥力出力装置で源斥力に変換しピストンエンジンで動かすという方が燃費が良くなるという。


 紅雷石発電装置の効率が良くなれば解決するような問題だと思うが、解決するには時間が掛かるそうだ。


 そんな研究を手伝っている間に、俺のスキルリストに『上級知識(立体紋章)☆☆☆☆』が増えた。これを取得するには、また守護者を倒さなければならない。


 そんな時にアメリカが交流を再開しようと呼び掛けてきた。日本に政府が存在していた時は、辛うじてアメリカ政府と連絡していたのだが、シフトが起きた直後から連絡が途絶えていたのだ。


 アメリカと連絡が取れる通信装置は、長野の臨時政府が管理していた。通信装置が久しぶりにアメリカと通信したようだ。


 俺は美咲に会いに行って、どうするのか尋ねた。

「私たちもアメリカの情報が欲しいから、会うことになったの」

「ふーん、大丈夫なのか?」

「アメリカは早くから食料エリアへ移住して、開発を進めていたようだから、余裕が出来たので世界各国を確認しようということじゃない」


「どこで会うんだ?」

「強い異獣が少ない伊豆諸島の大島で会うことになるみたい」

 大島の人口は元々六千人ほどで少なったので、強い異獣はいなかったようだ。ただ異獣や毒のせいで人口は千人ほどまでに減ったらしい。


 大島の生き残りは、最終的に本州にある転移ドームからアガルタへ移り生活している。現在の大島は無人なのだ。


「アメリカ人は、どうやって太平洋を渡ってくるんだ?」

「大型クルーザーで来るそうよ」

「ふーん、アメリカのことだから軍艦で来るのかと思っていた」


 美咲が肩を竦める。

「軍艦は燃費が悪いのよ。アメリカもエネルギー不足なんじゃないの」

 アメリカにはシェールガスやシェールオイルがあるので、掘る作業さえできればエネルギー問題は解決する。


 だが、異獣の存在が採掘作業を邪魔するので、エネルギー不足になっているようだ。

 アメリカ人を大島に迎える準備として、異獣の数を減らすことが必要らしい。守護者もいるということなので、異獣を減らす手伝いをすることにした。


 本来なら臨時政府の首長である生駒総理が相手をするのだが、生駒総理が体調を崩しており美咲が代表して、アメリカの使節を歓迎することになった。


 俺たちは耶蘇市から船で大島に向かった。関門海峡を通って太平洋側に抜けて、四国の沿岸を通り大島へ向かう。数日掛けて大島に到着した。


 俺と河井を含む探索者たちで異獣を掃討して、大島を安全な場所にした。但し、まだ異獣が残っているかもしれないので、油断は禁物である。その過程で、俺は守護者を倒し『上級知識(立体紋章)』を手に入れた。


 それで得た知識の中に反重力とも言える力を発生させる立体紋章の知識も含まれていた。

「やった。これで新しい飛行機が手に入るかもしれないぞ」


 河井が俺に視線を向ける。

「その新しい飛行機で、アメリカまで飛べるのか?」

「どうだろう? 燃料が紅雷石になるから、大量に持っていけば飛べると思う。だけど、アメリカも異獣だらけだぞ」


 河井が顔をしかめた。

「ハワイも異獣だらけ?」

「もちろん、ハワイもだ」

 がっかりして肩を落とす河井。


 俺たちはアメリカの使節団を迎える準備を終えて、アメリカ人たちを待った。そして、遠くの海に大型クルーザーの姿がポツリと見えて、それが次第に大きくなり大島の港に到着する。


 アメリカ人たちが緊張した顔で船から降りてきた。その手には小銃などの武器を持っている。

「何で武器なんか持っているんだ?」

「何か警戒しているみたいだけど、異獣がいるかもしれないと思っているのかしら」


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