第128話 紋章構造体
俺と野崎准教授は立体紋章について討論し、どうやって検証すれば良いのかアイデアを考えた。
「コジロー君が使っている気というエネルギーは使えないのかね?」
「どうなんでしょう? 試した事はないです。電気はどうなんです?」
立体紋章には始点と終点があり、始点から注ぎ込まれたエネルギーが複数に分かれたり一つに纏まるという複雑な軌道を描き終点へ流れ出す。
「銅で立体紋章を作って試してみたが、電気エネルギーでは何の反応も得られなかったよ」
「その立体紋章というのを見せてください」
野崎准教授に見せてもらった立体紋章は、クゥエルタワーの十四階にあったもので『中級知識(立体紋章)』にも存在した。
この立体紋章は源斥力というエネルギーを電磁波のような波に変えて放射する『源斥波発信』という効果を持つものだった。これと対を成す『源斥波受信』という立体紋章もある。
この立体紋章で効果を検証するのは無理だと、俺は准教授に説明した。
「そうなのか、クゥエル支族はこの立体紋章を重要なものだと考えていたらしいので、これにしたんだが、失敗だったな」
俺はエネルギーを光に変換する『光変換』の立体紋章を選んで准教授に『源斥波発信』と同じようなものを作るように頼んだ。この時、『紋章構造体』という名前も命名している。
『光変換』の紋章構造体が完成した後、それを使っていくつかの実験が行われた。電気や気、神気を流し込んで反応があるか確かめたのである。
その結果、神気で反応があり紋章構造体が光った。神気というのは源斥力に近いエネルギーなのかもしれない。
神気を使えば実験ができると分かったので、様々な立体紋章の紋章構造体を作製し試してみた。おかげで俺のスキルリストに『初級知識(立体紋章)☆☆』が追加される。
俺はスキルポイントを使って、『初級知識(立体紋章)』を手に入れた。その知識のおかげで様々なことが判明した。
紋章構造体の材料としてはプラチナが良いようだ。
「プラチナか。投資用が多いと聞いたから宝石店なんかに備蓄されているのかな」
河井が言った。それを聞いた俺は宝石店のオーナーなら逃げる時に持ち出したはずだと反論する。
「でも、全部の宝石店のオーナーが逃げ出せたとは限らない」
「まあ、そうだな。一応耶蘇市の宝石店を探してみるか」
「そう言えば、死んだ御手洗市長が隠し持っていそうだったけど、見付からなかったんだろ」
御手洗市長が藤林に殺された後、市長室や自宅を探したが、出てきたのは紙幣だけだった。
「竜崎さんに聞いたけど、どこに隠したのか分からなかった」
「ふーん、御手洗市長は別荘とか持っていなかったっけ?」
「東下町にはなかったはずだ」
「そうなると、やっぱり自宅が怪しいな。御手洗市長の自宅も調べてみよう」
河井の意見に、俺は同意した。
野崎准教授と別れてヤシロに戻り、一度自宅に帰る。子供たちとエレナに向かえられ、俺は幸せな時間を過ごす。
「コジロー兄ちゃん、どこに行っていたの?」
メイカが俺に抱きついて質問する。
「クゥエルタワーへ行ってきたんだ。凄く高い塔なんだぞ」
「へえー、行ってみたいな」
「そうか、今度飛行機が使えるようになったら、一緒に行こう」
コレチカが近付いてきて、
「ねえ、探索者になりたいんだ。日本に連れて行ってよ」
「まだ早いな。中学を卒業してからだ」
ヤシロでは小学校と中学校が復活し、来年度から高校も復活する事になっていた。
「ええーっ、タクロウ兄ちゃんは探索者になったのに」
「タクロウは、コレチカより四つ年上じゃないか。それにタクロウは探索者というより、武藤さんの手伝いで漁師をやっているんだぞ」
「でも、個体レベルが『5』になったって、教えてくれたよ」
コレチカは探索者になりたいというより、異獣を倒して個体レベルを上げたいらしい。
エレナが心配そうな顔をして近付く。
「私たちはアガルタで暮らし始めたんだから、強くならなくてもいいのよ」
コレチカが不満そうな顔をする。
「だって、アガルタにもピンクマンモスや巨虎が居るよ」
「ピンクマンモスは、探索者でも勝てないぞ」
俺が言うと口を尖らせたコレチカが、
「コジロー兄ちゃんも勝てないの?」
「俺は守護者を一杯倒して凄く強くなっているから、勝てるかもしれない」
「だったら、守護者を倒して強くなる」
子供たちの希望はなるべく叶えてやりたいが、探索者という職業はあまり勧められない。
その日は自宅でゆっくりと休んで、次の日は河井と一緒に耶蘇市へ向かう。耶蘇市には宝石店がいくつか有るが、まだ存在しているのは二軒だけである。他の宝石店は異獣により壊されてしまっている。
最初の宝石店は以前ゴーレム区だった場所にあった。現在ここは巨大昆虫区になっており、道の真ん中を巨大カマキリや全長二メートルもある巨大クワガタが歩いている。
「子供の頃は、大きなクワガタが欲しかったんだけど、ここまで大きいと欲しいとは思わないな」
「その代わり、あのクワガタが欲しそうな目をしているぞ」
「はあっ、冗談を言う暇があるなら、攻撃しろよ」
河井が『縮地術』を使って巨大クワガタに接近し、『五雷掌』の【浸透雷】を叩き込んだ。硬いクワガタの外殻から浸透し、内部で落雷したかのような力の爆発が起きる。
その一撃で巨大クワガタは倒れた。
一方、俺は巨大カマキリと戦い始めていた。全長が三メートルほどあるカマキリは、巨大な鎌で俺の首を狙ってくる。
鎌の攻撃をカマキリの懐に飛び込むことで躱して、翔刃槍の刃をカマキリの首に滑り込ませる。押し当てて力を込めて引くと首が刎ね飛んだ。
俺たちは宝石店を探し出し中に入った。宝石が並んでいたと思われるショーケースは破壊され、中身は消えている。
「奥に金庫があるはずだ。それを探そう」
二人で探して金庫を見つけた。金庫は壊され、中身が床に転がっている。但し、安い銀貨などだけで高価なものはオーナーが持ち出したようだ。
「仕方ない、もう一軒の宝石店へ行こう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます