第127話 中級知識(立体紋章)

 獣王区の守護者と戦っていた俺たちは、守護者の口から冷凍光線のようなものが発せられてびっくりした。


 俺は神気を足に流し込み跳躍、蹴り上げた地面から爆発したように土煙が上がり、その力が凄まじいことを証明する。その瞬間、守護者は俺の姿を見失ったはずだ。


 守護者の横に着地した俺は、翔刃槍に神気を流し込む。その時になって、ようやく守護者が俺に気付き向きを変えようとする。翔刃槍に流し込んだ神気が三日月型の刃となって守護者に飛んだ。


 それに気付いた守護者は背中の翼を広げて飛び上がり神気の刃を躱そうとする。だが、反応が遅すぎた。神気の刃は守護者の翼を切り裂き、奥にある木を切り倒して空に消える。


 守護者が俺を睨み口を開ける。また冷凍光線か、俺は神気を使った脚力で横に跳んだ。その横を危険な白い光が通り過ぎる。


 冷凍光線を避けた俺に、蛇の尻尾が襲い掛かった。鎌首を持ち上げた蛇が毒のある牙を見せて噛み付こうとする。俺は持っている槍で薙ぎ払う。


 蛇の胴体に翔刃槍の刃が当たって弾かれた。だが、蛇が切り裂かれた訳ではない。驚異的なほど頑丈な蛇を、俺は睨んで守護者の背中に飛び乗った。


 背中に翔刃槍の穂先を突き刺して神気の刃を発生させようと思ったのだ。突き刺そうとした時、また蛇が襲い掛かった。神気を翔刃槍に流し込み神気の刃を蛇の胴体に向ける。


 蛇が真っ二つに切断され、守護者が全身を震わせ吠えた。俺は振り落とされて地面を転がる。そこに河井の援護射撃が来る。


 『縮地術』を使った河井が守護者の横に踏み込んで『五雷掌』の【爆雷掌】を叩き付ける。守護者の身体が持ち上がり、その口から血が吐き出された。


 守護者の前足の爪が河井を引き裂こうとする。『縮地術』を使って回避する河井。チャンスだと思った俺は、神気を翔刃槍に流し込み神気の刃を守護者の首を狙って撃ち出す。


 神気の刃が守護者の首に食い込み、その太い首を切り裂いた。大量の血が噴き出し守護者が倒れる。

「ふうっ、手強かったな」


【守護者キラヴァルスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】 


 馴染みのある声が頭の中で響いた。俺は『機動装甲』を選んでレベルマックスにした。これで防御に関しては、安心できる。まあ、『機動装甲』が通用しないような攻撃もあるかもしれないので、油断はできない。


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


 お馴染みの苦痛が襲ってきたが、俺は完全に耐えられるようになっていた。


【レベルアップ処理終了。ステータスを表示します】



 個体レベルが『78』になった。分裂の泉を探して見付けると、俺が飛び込んだ。水中にある制御石に触れて、三つの選択肢の中から『スキル一覧からスキルポイントなしで任意のスキルを一つ習得』というのを選んだ。


 そして、知識スキルの一つである『中級知識(立体紋章)』を取得する。

「ぷはっ」

 分裂の泉から出た俺は、頭の中に増えた知識をチェックした。

「コジロー、手に入れた知識スキルは目的のものだったのか?」


「間違いない。クゥエル支族が使っていた立体的な模様と同じものだ」

 それは『立体紋章』と呼ばれるもので、立体紋章に沿って特定の力を流し込むと立体紋章が意図する現象が起きるらしい。


 俺の頭の中に膨大な知識が渦巻いている。だが、『初級知識(立体紋章)』を取得していないので基本的な情報が欠けているように思える。


 そのことを河井に伝える。

「じゃあ、その立体紋章というのを使えないのか?」

「どうだろう。野崎准教授と話し合ってみて、この知識が使えるか研究してみようと思う。そうすれば、『初級知識(立体紋章)』もスキルリストに出て来るんじゃないか」


 俺たちはヤシロに戻った。美咲に『中級知識(立体紋章)』を手に入れたことを伝えてから、野崎准教授の居るクゥエルタワーに向かった。


 前回は小型飛行機で行ったが、今回は新しく開発された紅雷石発電装置を動力源とした高機動車で行くことにした。


 この高機動車は、初めてアガルタで開発されたものである。アガルタに移住した自動車会社の技術者たちが集まって開発した車種で、頑丈なだけで単純な構造をした車だった。


 この高機動車でクゥエルタワーまで行くと、六時間ほどの時間が掛かる。到着する頃には尻が痛くなるほど酷い道だった。というか、ほとんど道のない場所を走ったのだ。


「うーっ、尻から血が出そうだ」

 河井がしょうもないことを言う。ただ河井の気持ちも分かる。

「専用の飛行機が欲しいな。道もないようなところを走るのはきつ過ぎる」


「なあ、あの小型飛行機を、コジロー専用にできなかったのか? 日本から持ってきたのはコジローだろ」

 俺は顔をしかめた。

「アガルタに持ち込んだのは俺だけど、持ってきただけで修理や改造は全部技術者たちがしたからな。その技術者に金を出したのは、ヤシロ市だ」


 なので、小型飛行機の管理はヤシロ市が行っている。空いていれば俺たちも使えるが、今は役人を他の都市に運んでいるらしい。


「はあっ、飛行スキルとかないかな」

「空を飛びたいのか。言ってくれれば、俺が飛ばしてやるぞ」

「ノーサンキュー、それは衝撃波をお見舞いしてやる、ということだろ」


「バレたか」

「冗談はともかく、その立体紋章で空を飛べるようにならないのか?」

「クゥエル支族が、重力を制御していたという話か。可能になったら、凄いことなんだが」


 タワーに入って、野崎准教授を探す。准教授は十二階の壁画の前にいた。

「准教授、立体紋章の知識スキルを手に入れましたよ。使えるものがあるか調査したいので、協力してください」


「ほう、そんなものがスキルにあるのか。まだまだ謎が多いな」

 俺は頭にある知識を紙に書き出して、准教授に見せ分析してもらう。


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