第126話 獣王区の守護者

 クゥエル支族が重力制御の技術を持っていたと分かった後、美咲は重力関係の科学知識に詳しい人材を探し出し、クゥエルタワーに送り込んだ。


 そのタワーにあるクゥエル支族の歴史の中には、ちょっとしたヒントが隠されていた。紅雷石は『源斥力』と呼ばれるエネルギーを結晶化したものなので、ある方法を使うと源斥力エネルギーを取り出すとことが可能らしいのだ。


 但し、そのヒントだけで実現させるには相当な時間が必要だろうと推測されていた。

「その源斥力エネルギーを使えば、重力制御が可能になるのですか?」

 美咲のところに報告に来た野崎准教授に質問した。


「ええ、クゥエルタワーの壁に刻まれていた立体的な模様がヒントになるらしいのですが、まだ判明していません」

 そう言われて思い出した。クゥエル支族の歴史が書かれた壁に変な模様が描かれていたのだ。


「模様か、そう言えば中国の連中を倒した時に、変なスキルが一覧にあったな」

 耶蘇市を襲撃した連中を倒して手に入れたスキルリストには、あまり使えそうなスキルはなかった。ただ、その中に『中級知識(立体紋章)☆☆☆』というものがあったのを思い出す。


 それを美咲に話すとクゥエル支族の立体的な模様と知識スキルの『中級知識(立体紋章)』が同じものかどうか分からないという。


「立体紋章ね。そのスキルを入手してみないと分からないかな。コジローが試してみて」

「そうなると、また守護者と戦うことになる」

「スキルポイントは使ったの?」


「十六ポイントしか残っていない」

「スキルを習得するには、守護者を狩るしかなさそうね。どこの守護者にする?」

「そうだな……耶蘇市の獣王区にするかな」


 耶蘇市の元小竜区だった場所が、獣王区になっている。この数年でシフトが何度か起きたが、人が住まなくなった土地は、シフトが起きても位置が変わらない異獣区が増えていた。


「獣王区の守護者は手強いんじゃないの?」

「あそこの守護者は、キマイラだ。ライオンの肉体に鳥の翼、蛇の尻尾を持つ化け物だよ」


「特別な能力を持っているの?」

「それは分からない。だが、俺には『機動装甲』のスキルが有るからな。負けはしないだろう」


 野崎准教授から立体的な模様について聞いた翌日、俺と河井は耶蘇市に向かった。公園の転移ドームに転移すると、見張りの探索者がいた。


「コジローさん、今日はどうしたんです?」

「獣王区の守護者を狩りに来た」

「手伝いましょうか?」

「いや、大丈夫だ」


 俺と河井は公園を出て、獣王区に入った。この獣王区にいる異獣は、体重が五〇〇キロもあるバーサクベアだ。そのバーサクベアと公園の出口で遭遇。


 俺は翔刃槍を構え大きな熊と相対する。俺の横ではフレアソードを持った河井が、バーサクベアを睨んでいる。


 バーサクベアが先に攻撃を仕掛けた。飛ぶように迫ってくると、俺の胸を凶悪な爪で引き裂こうとしたのだ。俺は跳び退いて避ける。そして、翔刃槍を突き出した。


 翔刃槍は爪で弾かれ、そこに河井のフレアソードが斬り掛かる。フレアソードの切っ先がバーサクベアの肩を切り裂いた。唸り声を上げてバーサクベアが下がる。


 『縮地術』を使って河井がバーサクベアの懐に飛び込み、右の掌を熊の胴体に当て『五雷掌』の技の一つである【爆雷掌】を使う。バーサクベアの胸で火花が散り、衝撃音を伴って巨体を弾き飛ばす。


 【爆雷掌】は掌から雷のような稲妻と衝撃波を撃ち出す技で凄まじい威力を持っていた。その一撃でバーサクベアは死んだ。


 俺たちは心臓石を回収して獣王区の奥へと進んだ。

「なあ、久しぶりに日本に来たけど、どんどん変わっているように見えないか?」

 河井が周囲を見回しながら言った。その事は俺も感じている。家が崩壊し更地になった場所に木が成長を始めており、人間が暮らしていた土地が森に戻ろうとしているのだ。


 後数年も経てば、大きなビル以外は森に呑み込まれてしまうだろう。その森には異獣が跋扈ばっこし、異獣こそ日本、いや地球の支配者だという顔でのし歩き始めるのだろう。


「なんか、異獣に地球を乗っ取られた感じだな。奪い返す日が来るんだろうか」

 ちょっと切ない気分になりながら、守護者が巣食っている場所へと進んだ。バーサクベアを三匹倒した後に、守護者と遭遇する。


 全長が五メートルほどあるライオンに翼と蛇の尻尾を付けた奇妙な肉体を持つ化け物だった。そんな化け物を目にすると、ここは地球じゃないという感じが強くなる。


「油断するなよ」

「この化け物を見て、油断できる奴がいたら、尊敬するよ」

 もっともな意見である。俺は守護者から目を離さずに、奇妙な生き物を注視する。


 河井が『操炎術』の【爆炎撃】を発動。爆炎の玉が守護者に向かって飛ぶと、守護者が俊敏に攻撃を避けた。俺は守護者の動きを見て厄介な相手だと思った。


 まだ余裕がありそうな動きだったのに、かなり素早かったのだ。これだけの大きさがあるのにかなり素早いとなると、『超速思考』のスキルを目一杯働かせないとダメだろう。


 守護者の体が一瞬だけ沈んだように見えた次の瞬間、その大きな牙が俺の間近まで迫っていた。俺は神気を衝撃波に変えて放つ。


 衝撃波が守護者の全身を弾き、巨体が後ろに倒れた。守護者は素早く起き上がり跳び退く。その守護者に河井が、『操炎術』の【紫炎撃】を発動。


 レーザーのような高温の青紫に輝く炎が守護者を追撃して、その胴体を焼いた。守護者が苦しそうに唸り声を発して河井に向けて口を大きく開ける。


「河井、避けろ!」

 俺が声を上げた瞬間、河井が『縮地術』を使って守護者の正面から逃げ出した。守護者の口から白い光が発せられ、河井が居た場所に命中した。


 その場所が霜が降りたようになる。

「おわっ、冷凍光線かよ」

 河井が大声を上げる。冷凍光線なんて存在するのか? どんな原理だよ。


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